会期:2024/02/21~2024/04/15
会場:松屋銀座7階・デザインギャラリー1953[東京都]
公式サイト:https://designcommittee.jp/gallery/2024/01/dg787.html

2023年5月に開催されたG7広島サミットのテレビ報道を見て、思わずあっ! と声が漏れたことを覚えている。首脳らのワーキングランチで使われた椅子が、マルニ木工のHIROSHIMAアームチェアだったからだ。これはプロダクトデザイナー、深澤直人のいまや代表作のひとつと言える製品だ。地元、広島の家具メーカーであるマルニ木工が同サミットのために家具製作を請け負ったことには納得できる。そんな状況下で同社がHIROSHIMAを首脳らが座る椅子に選んだのは、これが彼らにとってアイデンティティーとも言える商品だったからに違いない。

展示風景 松屋銀座7階・デザインギャラリー1953[撮影:Nacása & Partners Inc.]

マルニ木工が深澤と協働してHIROSHIMAを生んだのは2008年。発表された当時のことを私はよく覚えている。当時、日本でプロダクトデザイナーとして人気絶頂となった深澤は、世界の名だたるメーカーやブランドで家具デザインにも積極的に取り組んでいた。マルニ木工もnextmaruniというシリーズを立ち上げ、世界的なデザイナーや建築家との協働に挑戦していた時期である。

展示風景 松屋銀座7階・デザインギャラリー1953[撮影:Nacása & Partners Inc.]

そんななかで、HIROSHIMAは趣が少し異なっていた。もっと地に足が着いたプロジェクトに感じたのだ。まず商品名が地元の地名である。広島は世界で最初に原爆投下された市街として、ある意味、負の遺産のように世界中に知られた名前だ。当初、その地名を商品名にすることにマルニ木工は尻込みしたと聞く。しかし深澤はどんな理由であろうと世界中に知られた地名だからこそ、冠するべきだと推したという。現に、だからこそG7広島サミットにも採用されたのだ。推測ではあるが、当時、時代の寵児になった深澤は、例えばトーネットのダイニングチェアやハンス・J・ウェグナーのザ・チェアなどに並ぶ、普及の名作椅子を自身もデザインしたいという気持ちがあったのではないか。そんな気概をHIROSHIMAの凛とした佇まいから感じるのだ。本展を観て、誕生から十数年以上経ったいまも、その彫刻的な美しさや気高さ、無垢の木材ならではの温もりや清浄さを失ってはいないと感じた。会場では実寸大の模型やパーツ、また工場での製造工程を写真や映像で観ることができる。

鑑賞日:2024/02/24(土)