発行所:Case Publishing
発行年:2023年
公式サイト:https://case-publishing.jp/jp/publication/new-land-pre-hokkaido-landscapes

日本の風景写真の新たな担い手の一人として、期待とともに注目を集めている中西敏貴が、新作写真集を刊行した。2012年に北海道美瑛町に拠点を移して制作を続けている中西にとって、北海道という北の大地の風景が、どんな成り立ちを経て生成してきたのかを写真を通じて解き明かすことは、強く求められていることといえるだろう。大雪山系の風景を中心に、緊張感と深みのあるモノクローム写真で構成した今回の写真集も、その問いかけの延長上にある。タイトルの「オプタテシケ」は、アイヌ語で「槍がそこで反り返っている」という意味だという。いうまでもなく、北海道の中央に槍のように聳え立つ大雪山系を言い表わした言葉である。

迫力のある、達成度の高い写真のオンパレードで、井手香菜子によるアートディレクションも出色の出来栄えなのだが、中西の写真の方向性がこれでいいのかという点においては、やや疑問が残った。もともと、本書は中西がグランプリを受賞したHOKKAIDO PHOTO FESTA 2022のポートフォリオレビューをきっかけに構想されたもので、そのときの受賞作は「サハリンから北海道にもたらされたオホーツク文化を、歴史的遺物や風景から検証する」(関次和子「中西敏貴 自然の造形」)ものだったという。ところが、本作では、そのような北海道という地域の個別性、固有性は捨象され、「まるで遠い彼方にある惑星の表面のような世界観」が提示されることになった。本書のような抽象度の高い表現を志向するのも、選択肢のひとつであるとは思う。ただ、写真集を眺めながら、北海道在住の作家であることの必然性、当事者性を、もっと強く打ち出していくべきではないかという思いを抱いた。

と、このように懸念していた矢先、中西から連絡が入った。「オホーツク文化」にかかわる写真は、本作とは別に現在も撮影を続けていて、今年の秋に写真展の開催および写真集の刊行を予定しているとのこと。それを聞いて安心した。

鑑賞日:2024/02/15(木)