
会期:2026/07/04~2026/08/26
会場:ヒカリエホール[東京都]
公式サイト:https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/26_kiseki/
2024年にAperture社から刊行された『I’m So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now』は、戦後日本の写真史を女性写真家の実践から捉え直し、その歴史と表現を体系的に紹介した一冊である。同書を起点として2024年にアルル国際写真祭で26名の日本人写真家によるグループ展「I’m So Happy You Are Here」が開催され、同展はその後複数の都市を巡回した。東京では今井壽惠、岩根愛、藤岡亜弥、米田知子の4名を新たに加えて30名の作品が紹介され、長らく日本写真史の周縁に置かれてきた女性写真家の仕事を複数の系譜から編み直そうとする展覧会となっている。
本展の特徴は、作家を年代順に並べるのではなく、「写真というメディウムの多様性」「記録と記憶」「ジェンダー・身体・セクシュアリティ」「日常」という4つの章を通して、異なる時代の実践を横断的に構成している点にある。冒頭では、瀧口修造との交流を背景にフォトコラージュを展開した岡上淑子と、戦前から写真に取り組み、晩年には抽象的な表現へと向かった山沢栄子の作品が並ぶ。女性写真家という共通項以上に、写真表現の可能性をそれぞれ異なる方法で押し広げてきた実践として浮かび上がらせている。
さらに長島有里枝、HIROMIX、蜷川実花といった1990年代以降に登場した作家と、渡辺眸や常盤とよ子、石内都ら異なる世代の作家を同じ空間に配置させることで、日本写真史のなかでの個別に語られてきた作品のあいだに新たな連続性を捉えようとしていた。蜷川実花による色彩を排除したモノクローム作品や家事と制作をめぐる女性同士の関係を主題とした長島有里枝のインスタレーションも、ガールズフォトと形容された作家像とは全く異なる側面を示した。
一方で、本展が女性写真家を可視化し、その歴史を書き直そうとする試みであるからこそ、女性という枠組みそのものがどう提示されているかも検討する必要がある。原題「I’m So Happy You Are Here」に対し、東京展では「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」という邦題が与えられた。女性写真家の活動を可視化するために性別を前景化しながら、かつて女流写真家や女の子写真といった呼称が作家の実践をジェンダーによって括ってきた歴史を、別のかたちで反復してしまう危うさも残されている。開催そのものに意義を見出せる一方で、女性を神秘化して描こうとする純粋な対象として捉え直してしまっている印象も受けた。
そうしたなかで特筆すべきは、終盤に置かれた年表である。日本の女性写真家として先駆的であった山沢の活動から始まり、作家個人の活動だけでなく、社会史と写真史の出来事を同一の時間軸上に配置している。女流写真家や女の子写真として形容されてきた歴史に抗うように、今日に至る作家それぞれの探求と時代との結びつきが横断的に語られていた。本展が示しているのは、女性写真家を性別という属性によってまとめ直すことではなくそれぞれの実践の差異として可視化することにある。作品それぞれの評価とともに、性別という属性を主軸としない括り方について考えさせるという点で、本展は現在進行形で形作られている、手探りの実践であるともいえる。
鑑賞日:2026/08/21(金)