企画:佐藤卓
監修:橋本麻里、立花昭
著者:橋本麻里、下川一哉、杉江あこ、外舘和子、阪口公子、立花昭

デザイン:鈴木文女・長谷川桃(TSDO)
写真:西部裕介、五十嵐拓也(amana)
発行:セラミックバレー協議会
発行日:2026/11/03
サイズ:A4変形上製本、函入、1400ページ
https://ceramicvalley.jp/lp/the-book-of-mino/

なんと1400ページもの書籍ができ上がってしまった。実物を目にしてもらうとわかるが、辞書並みの分厚さである。でき上がってしまったというのは、私も執筆・編集に全面的に携わった書籍であるからだ。従って制作側の視点に立って本稿を書いていることをまずは断りつつ、本書の骨子を紹介したい。「美濃焼の解剖」というタイトルどおり、これは美濃焼について書かれたものである。美濃焼とは岐阜県多治見市・土岐市・瑞浪市・可児市を中心に作られている陶磁器のことで、この地域は日本最大の陶磁器産地でもある。近年、暮らしを豊かにする「うつわ」の愛好者が増えてきているが、彼らが対象とするのはたいてい作家ものや工芸品などだ。美濃焼産地にもそうした作品や商品はあるのだが、主たる産業は工業製品である。その点が、ほかの陶磁器産地との大きな違いだろう。つまりラーメンや牛丼、コーヒーなどのファストフードチェーン店、またフードコートやサービスエリアなどの飲食店で供される業務用食器、あるいは大型スーパーマーケットや雑貨店などで販売される比較的安価な食器、記念グッズやノベルティー用食器などを大量生産しているのが美濃焼産地なのだ。つまり日本の外食・内食産業を下支えしている産地と言っても過言ではない。

本書の第一章が「美濃焼のラーメン丼」なのは、そうした背景を汲んでいる。日本のラーメン店で使われているラーメン丼の約9割が美濃焼産地で作られている、という実情を暗に示しているのだ。制作過程で私も何度か現地へ取材に赴いたのだが、窯元を訪ねると「あれは◯◯の丼」など、誰もが知るチェーン店の名を挙げて教えてくれることが多々だった。このような大量生産品の陶磁器(ラーメン丼、飯碗、ディナープレート、マグカップ、タイル)と美濃焼の伝統的工芸品(志野茶碗)を、グラフィックデザイナーの佐藤卓が提唱する「デザインの解剖」の視点で解き明かしたのが本書なのである。

さらに美濃焼産地で盛んなセラミックアートの動向を加え、歴史、産地、土(原料)などについても、つぶさに紹介している。合間にビジュアルページをたっぷりと載せ、紙をめくるだけで楽しいエディトリアルデザインに仕上げていった結果、1400ページもの書籍ができ上がったというわけだ。このデジタル・AI時代によくぞ作ったと思われそうだが、発行者であり、地元で美濃焼のブランディングに取り組むセラミックバレー協議会の願いは、100年後まで本書を残すことである。そもそもこの地域は約1400年も連綿と続いてきた陶磁器産地なのだ。たとえ100年経ったとしても、その生産技術や産地生態系が廃れることはきっとないはずであるから。

執筆日:2026/10/07(水)