どの風景も作品も、パンデミック前と同じようには見られない。グローバルな、あるいはごく個人的な規模での「距離」の問題を、それぞれ異なる切り口で扱う現代の作家8名と1組による展覧会「遠距離現在 Universal/Remote」(国立新美術館で2024年6月3日まで開催)に関連し、世界との距離を測り直す一助となる本を紹介します。
[協力:国立新美術館]

 

今月のテーマ:
パンデミック以前/以後、変わりゆく世界との距離を測り直す5冊

1|デューティーフリー・アート:課されるものなき芸術 星を覆う内戦時代のアート

著者:ヒト・シュタイエル
翻訳:大森俊克
発行:フィルムアート社
発行日:2021年9月25日
サイズ:19cm、384ページ

ファッション業界を取り巻くグローバル資本主義の状況と、SNSを通じたイメージの拡散/収奪の現状を紐解くレクチャーパフォーマンスの記録を本展でも展示していたアーティスト、ヒト・シュタイエルによるメディア批評/芸術論集。ネット上の身近な話題から現代の矛盾の数々をアイロニカルに指摘する文体の鮮やかさにも注目。

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2|野生の探偵たち:上(エクス・リブリス)

著者:ロベルト・ボラーニョ
翻訳:柳原孝敦、松本健二
発行:白水社
発行日:2010年4月1日
サイズ:19cm、449ページ

「新しいかたちの文学的な体験」をコンセプトに制作を行なう本展参加作家、地主麻衣子による展示作品《遠いデュエット》の構造の下敷きとなった、チリの詩人・小説家ロベルト・ボラーニョの半自伝的作品。亡くなったある架空の詩人の周囲の人々の証言や日記から、本人の輪郭を探っていく過程にぐいぐい引き込まれます。

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3|複数性のエコロジー 人間ならざるものの環境哲学

著者:篠原雅武
発行:以文社
発行日:2016年12月12日
サイズ:19cm、320ページ

大きな生態系の中で人間を再定義し、現代のエコロジーの概念を更新するティモシー・モートンの思想を読み解く本書は、生きづらさや死に関する著者の個人的なエッセイの側面も。「忍耐強さ」とそれに対する慣れの存在といった寓意を感じさせる映像作品《Fever》などを本展に出品する井田大介の推薦書でもあります。

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4|ヘルシンキ 生活の練習

著者:朴沙羅
発行:筑摩書房
発行日:2021年11月12日
サイズ:19cm、288ページ

デンマークで孤独死を迎えた人々の部屋を撮ったティナ・エングホフの写真作品に関連して。福祉国家の幸福なイメージが先行する北欧(※本書の舞台はフィンランド)での、コロナ禍での子育ての実感を素朴に綴る本書を踏まえると、社会保障の充実が落とす影を扱った本展のエングホフの作品もより鮮明に受け止められるはず。

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5|アクロバット前夜90°

著者:福永信
発行:リトルモア
発行日:2009年6月
サイズ:20cm、229ページ

本展の公式カタログに掌編小説を寄せている福永信による作品集。独特の感触を帯びた文体はもちろん、横書きの1行がページを跨ぎ、隣の見開きに次々続いていく前代未聞の本文レイアウトで刊行された原著を経て、縦書き(=90°)のいわゆる普通の小説本の体裁で発売されたという経緯含め、作家の特異性がよくわかる一冊。

版元ドットコムウェブサイト

 

遠距離現在 Universal/Remote

会期:2024年3月6日(水)〜6月3日(月)
会場:国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)
公式サイト:https://www.nact.jp/exhibition_special/2024/universalremote/


「遠距離現在 Universal/Remote」公式図録

サイズ:25.7×18.2cm(B5判)、141ページ、日英バイリンガル
発行日:2023年10月6日
デザイン:村尾雄太
編集:浅見旬、尹志慧
発行:国立新美術館
コンテンツ:
[エッセイ]「遠距離現在」尹志慧
[対談]「イメージの自律性、つまりイメージが人を殺すことは知っていたが、今やその指は引き金にかけられた」ヒト・シュタイエル、トレヴァー・パグレン
[インタビュー]「アートがもたらす変化」ティナ・エングホフ
[掌編]『遠距離現在』福永信


◎展覧会会場、オンラインストアにて販売中。詳細情報は展覧会ウェブサイトをご参照ください。

2024/04/04(木)