開館一周年記念特別展 赤と黒の芸術 楽茶碗
「楽焼」という言葉は国内のみならず、近頃では東南アジアや米国などにおいても広く知られています。しかし茶の湯界以外では実際に作品に接する機会は少ないようです。当館では、この度の開館1周年を記念する特別展で楽焼をテーマとし、京都の樂家歴代、すなわち初代長次郎から現代に活躍する十五代樂吉左衞門氏までの代表的な作品を選りすぐって紹介する機会といたしました。
楽焼は、侘茶の大成者といわれる千利休が、自らの茶の湯にとって理想とする茶碗を創意し、その想いを長次郎が受けとめ、具現化したことに始まります。以来、利休の茶碗に対する想いとその陶法は、長次郎を初代とする京都樂家に連綿と受け継がれ、今日の十五代樂吉左衞門氏にいたっています。長次郎の茶碗といえば赤茶碗と黒茶碗に限られています。長次郎は轆轤(ろくろ)を用いずに箆(へらえ)で姿を削りあげ、家屋内の小規模な窯で焼くなど、当時の日本のやきものには他に例をみない陶法によって茶碗を造っています。こうした長次郎の特殊な陶法はその後の樂家歴代に受け継がれていきますが、単に技術の継承にとどまらず、むしろ利休の侘茶の心を根底に据えて歴代の茶碗が造り続けられたことが楽茶碗の本質といえるでしょう。もちろん長次郎の後、樂家歴代は赤茶碗、黒茶碗を基調としながらさらに陶技を広げ、歴代ごとの個性も示していきます。したがって桃山時代前期より造り続けられてきた樂家の作品、ことに茶碗には各代の時代性さえも窺われます。
およそ430年間造り続けられてきた楽焼の流れを歴史的視野でご覧いただき、さらに各歴代の作品をお楽しみいただければ幸いです。
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