具体的な美術。と言っても、単に抽象表現の対立概念なのではなく、この言葉を初めて用いたT・v・ドゥースブルフは、持論でもあるエレメンタリズムとの兼ね合いで、絵画なら色彩とコンポジション、彫刻なら輪郭と量塊といった具合に、美術作品の形式上の特性のみを問題とする立場を打ち出した。その意味では、「コンクリート・アート」の原義は幾何学的均衡を重んじる抽象表現にあり、その言葉とは裏腹に、具象表現とは対立するものと言っていい。その後1930年代には、J・アルバースやその弟子であったM・ビルなど、自らの作品を「コンクリート・アート」と称する作家が登場するようになった。彼らの作品は、いずれもドゥースブルフの原理よろしく、一切の感情表現を排した客観的な外観と数学的な厳密さを特徴とし、美術作品がそれ自体として独立した物体としての価値を持ちうるというその立場は、戦後の抽象表現主義などにも継承されていった。様式としての「コンクリート・アート」は、後継者を欠いていたこともあり50年代には衰微してしまうが、後世に与えた影響は少なくない。
(暮沢剛巳)
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