1960年代の中後半、アメリカ一帯に出現した既存の制度や文化を否定した若者集団の総称。厳密な定義は困難だが、長髪や奇抜な服装、定職に就かずに流浪を繰り返すなどの反社会的な行動が人目を引く一方で、その多くが正規のアカデミズムからドロップアウトした東部のエスタブリッシュメント家庭の出身者で占められていたことから、ヴェトナム戦争への厭戦感に満ちたこの時代特有のカウンター・カルチャーを象徴する現象として考えられることが多い。フルクサスや禅の受容、あるいはポリティカル・アートの台頭など、同時代の現代美術とも多くの接点を持っており、とりわけサイケデリック・ムーブメントとは密接に関連していた。一部のヒッピーがLSDなどのドラッグに溺れる奇行が目立ったため、その反社会性ばかりが強調されることが多いが、多くのヒッピーはそのネイチャー志向を通じて消費文明への批判を実践する。むしろ穏健な精神の持ち主であったことを忘れてはなるまい。多くのヒッピーがその精神的な範と仰いだ書物としては、まずL・ホワイトの『機械と神』が挙げられる。
(暮沢剛巳)
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