「リアリズム」と言えば、美術史上真っ先に想起されるのは「写実主義」、すなわち、19世紀中頃にフランスで起こった、日常の現実的傾向を正確に描こうとした一連の絵画運動のことであり、その代表的作家として、E・マネ、G・クールベ、H・ドーミエらが知られている。この運動は、客観性と実証性を重視する立場を打ち出したG・フローベールらの小説とも同時代的な並行関係をなしているが、美術の場合は、さらに客観性を徹底したその行く末が、「自然主義」ではなく「表現主義」と「印象主義」であった点が異なっている。そして20世紀を迎えて、事象を正確に描きたいという作家の欲望は、「社会主義リアリズム」「ハイパー・リアリズム」「ヌーヴォー・レアリスム」などさまざまな「リアリズム」を生み出すこととなった。もっとも、これらの諸傾向を、単に19世紀的な「写実主義」との関連で語るべきではないだろう。とうてい写実的とは言えない「キュビスム」や「抽象表現主義」などの絵画にしても、目指すところはそれぞれの論理と知覚に基づく正確な描写なのであり、字義通りにとらえるならば、すべての芸術作品が「リアリズム」であるとも極言できるからだ。「写実主義」は、そのほんの一部に過ぎないのである。
(暮沢剛巳)
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