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アザー・クライテリア

Other Criteria
更新日
2024年03月11日

アメリカの美術史家レオ・スタインバーグ(1920-2011)の言葉。「他の批評基準」「他の評価基準」などと訳される。スタインバーグは1968年にMoMAで行なった同名の講演、および72年の著書において、C・グリーンバーグに代表されるフォーマリズム批評を舌鋒鋭く批判しつつ、それに代わる「他の」批評基準を提示しようと試みた。絵画をひたすら平面性へと還元するフォーマリズム批評の抑圧性に代わるものとしてスタインバーグが導入する概念のひとつが「平台型絵画平面(flatbed picture plane)」である。ルネサンス以来、絵画は観者の視線に対してつねに投射的で垂直的な平面性を保ってきたが、ロバート・ラウシェンバーグらの作品には、人間の視線に対して90度回転された「水平性」が見て取れる。以上のような視角からデュシャン以降の美術作品を論じたスタインバーグの議論は、たんにラウシェンバーグらの作品読解にはとどまらず、D・クリンプ、R・クラウスをはじめとする後代の美術批評家たちの議論の枠組みに多大な影響を及ぼした。その目的および功績は、すでに述べたように第一にはフォーマリズム批評の相対化にこそあった。しかしより広範な観点から見れば、ある作品の評価において単一の「揺るぎない基準」に固執するのではなく、自己の批評基準をたえず歴史的に問いなおす(=たえず「他の」批評基準を追い求める)というその態度の問題において、スタインバーグの議論は重要なものであったと言えるだろう。

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参考文献

Other Criteria: Confrontations with Twentieth-Century Art,Leo Steinberg,Oxford University Press,1972
『美術手帖』1997年1-3号,「他の批評基準」,レオ・スタインバーグ(林卓行訳),美術出版社