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『映画における意味作用に関する試論 映画記号学の基本問題』クリスチャン・メッツ

Essai sur la signification au cinéma(仏), Christian Metz
更新日
2024年03月11日

フランスの映画理論家クリスチャン・メッツの初期の代表的著作。1964年から68年に書かれた論文を収める。それらはR・バルトの試みを引き継ぎ、映画に構造言語学の概念を導入することで「映画記号学」を創始しようとするものであった。メッツ以前にも映画を言語活動とみなそうとする試みは存在していたが、その多くは映画を「言語(ラング)」と同一視して、映像を語に、その連なりを文に対応させようとする類いのものであった。これに対してメッツは64年の「映画 言語か言語活動か」で、映画は音素にも語にも分節できず「二重分節」を欠いているのであって、厳密な意味での「言語」ではなく、「言語なき言語活動(ラングなきランガージュ)」であるというテーゼを提出した。映像はそれ自体がすでにひとつないし複数の文なのであって、それらが集まってより大きな集合体が構成される。こうして映画の記号学は、映像の形態論ではなく連辞論を探求することになる。それは映像の配列を八つのカテゴリーに分類した、名高い「大連辞関係」へと結実し、ジャック・ロジェの『アデュー・フィリピーヌ』(1962)の分析に適用されている。こうした試みは『言語活動と映画』(1971)や『映画記号学の諸問題』(1972)へと引き継がれる。その後メッツは映画の精神分析や映画における言表行為の問題にも取り組んだ。G・ドゥルーズらによって批判されることもあったが、メッツの著作はフランス本国のみならず世界の映画研究に大きな影響を与え、その基礎となっている。

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補足情報

参考文献

『映画における意味作用に関する試論 映画記号学の基本問題』,クリスチャン・メッツ(浅沼圭司監訳),水声社,2005
『映画記号学の諸問題』,クリスチャン・メッツ(浅沼圭司監訳),書肆風の薔薇,1987
『エッセ・セミオティック』,クリスチャン・メッツ(樋口桂子訳),勁草書房,1993
『映画理論集成』,岩本憲児、波多野哲朗編,フィルムアート社,1982