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構造的=物質主義的映画

Structural / Materiarist Film
更新日
2024年03月11日

1970年代のイギリス実験映画において、実験映画作家であるピーター・ジダルによって提唱された映画理論。アメリカをはじめとした国々ですでに現われていた構造映画と比較してもイギリスの構造的=物質主義的映画は、明確な理論が存在した点で特徴的であった。その理論は、イデオロギー批判の立場から弁証法的に映画生産過程――ここでの「生産」とは関係性の生産を指す――の分析を行なっている点に集約される。ジダルやマルコム・レグライスといった作家が、理論と映画制作の両方でこの試みを実践した。その理論は映画のストーリー性だけではなく、「再現」や「記録」といった映画の基本的なイリュージョン的性質がはらむイデオロギー性そのものを批判し、カメラに撮られた対象と映像の物質的(唯物的)な関係性を問い直すものであった。ジダルは『Upside Down Feature』(1967−72)や『Hall』(1968-69)といった作品のなかで、言語や反転、反復を利用しながら、スクリーン内部のイメージが持つイデオロギー性を解体する。レグライスも再撮影によって元々のイメージを解体する『Berlin Horse』(1970)などの作品を制作している。それに加えて、映写中にスクリーンの前に吊られた実物の電球を点滅させたレグライスの『Castle One』(1966)のような、上映環境を射程に含んだ作品も制作された。その試みは、美術におけるモダニズム的なフォーマリズムを映画に置き換えたものであったというよりも、むしろ、そのようなフォーマリズム化する傾向を解体するものであった点に注意すべきであろう。当時のイギリス実験映画に影響を与え、コンセプチュアルな映画が多数生み出されたが、このような映画的諸制度を総体的に分析するような理論によって裏打ちされた映画は、ある種の反動も生み出すことになり、後続世代には継承されなかった。

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参考文献

『イメージフォーラム』1981年10月号、12月号,「構造的=物質主義的映画の理論と定義」,ピーター・ジダル,ダゲレオ出版
『実験映像の歴史 映画とビデオ──規範的アヴァンギャルドから現代英国での映像実践』,A・L・リーズ(犬伏雅一ほか訳),晃洋書房,2010

参考資料

『Afterimages 1: Malcolm Le Grice Volume 1』,Malcolm Le Grice,Lux,DVD,2009
『Afterimages 2: Peter Gidal Volume 1』,Peter Gidal,Lux,DVD,2009