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「国防国家と美術─画家は何をなすべきか─」座談会

“Kokubo-kokka to Bijutsu: Gaka ha Nani wo Nasubekika”(round table talk)
更新日
2024年03月11日

太平洋戦争中に、陸軍情報部の軍人たちと美術評論家が、なぜ・どのような戦争画が求められているのかを討論した座談会、1941年1月の美術雑誌『みづゑ』に掲載された。出席したのは、陸軍省情報部員の秋山邦雄少佐、鈴木庫三少佐、黒田千吉郎中尉、批評家の荒木季夫、編集部の上郡卓。制作者の代表として何人かの画家も参加を呼びかけられていたようだが誰も出席せず、荒木が司会となって、軍人たちの話を聞くというかたちで進められた。三人の軍人たちの意見を見ると、ほかの二人がほとんど美術に関心もなく抽象的な議論をしていたのに比べて、鈴木だけが具体的に発言していた。鈴木は、美術がブルジョアの奴隷となっていること、二科展で見た作品がフランスの影響を受けすぎて植民地化していることを批判し、むしろ貧しい人々の家を飾るための絵画を制作することを求めた。さらに、作品内容としては裸体画でも構わないとし、とにかく「絵具とカンバスは思想戦の弾薬なり」として、絵画が時局にふさわしい思想感情を表現して、国家に役立つことの必要性を訴えた。そこには弾圧や統制よりも、むしろ国家社会主義的な観点からの積極的な芸術振興の思想が認められる。この座談会に対し、画家の松本竣介は『みづゑ』(同年4月)に「生きてゐる画家」という文章を発表し、軍部の主張を肯定しつつも美術家の精神の自立を訴えた。

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参考文献

『みづゑ』1941年1月,「国防国家と美術 ―画家は何をなすべきか―」,美術出版社
『みづゑ』1941年4月,「生きてゐる画家」,松本竣介,美術出版社
『アヴァンギャルドの戦争体験』,小沢節子,青木書店,2004
『言論統制 情報官・鈴木庫三と教育の国防国家』,佐藤卓己,中公新書,2004
『戦争と美術 1937-1945』,針生一郎監修,国書刊行会,2007