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写真とジェンダー

Photography and Gender
更新日
2024年03月11日

ジェンダーとは、もともとは「性別」を指す文法用語である。1970年代にフェミニズムの領域において、生物学的性別を指す「セックス」に代わり、社会的・文化的性別を指す「ジェンダー」という語が導入された。個々の人間の性差は、生物学的な性差(セックス)ではなく、社会的・文化的な性差(ジェンダー)に基づき生成されるのであり、また、ジェンダーが社会的構築物であること、セックスとジェンダーにはズレが生じること、ジェンダーは非対称であることなどが、社会学者、とりわけフェミニズム論者たちにより明らかにされてきた。そのような流れのなか80年代以降には、現代美術の領域で、とりわけ写真という手段を用い、ジェンダーにかかる諸問題を表現・告発する作家や作品に注目が集まった。例えばシンディ・シャーマンは、77年から制作を始めた「アンタイトルド・フィルム・スティル」シリーズにおいて、ハリウッド映画のB級ヒロインの姿に自ら扮し、社会的に構築され流布された女性像を鮮やかに示してみせた。ナン・ゴールディンは『性的依存のバラード』(1986)で、LGBTの友人たちとの日常を赤裸々に写し出し、同時代のセクシュアリティとそれに関わるエイズやドラッグといった問題を描いた。国内においては、90年代以降、笠原美智子を中心にジェンダーやフェミニズムをテーマとする展覧会が企画されており、現代写真において今なお欠かすことのできない、重要なテーマといえる。

補足情報

参考文献

『ジェンダー写真論 1991-2017』,笠原美智子,里山社,2018
『写真を〈読む〉視点』,小林美香,青弓社,2005
『私という未知へ向かって 現代女性セルフ・ポートレイト』,東京都写真美術館,財団法人東京都文化振興会,1991