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受容美学

Rezeptionsästhetik(独), Reader-response Criticism(英)
更新日
2024年03月11日

社会構造の変化や制度化された文学研究への反省を背景に、1970年代にドイツを中心として展開された読者による作品の受容過程を分析の対象とする美学研究。66年設立のコンスタンツ大学に所属していたハンス・ロベルト・ヤウス、ヴォルフガング・イーザーらコンスタンツ学派によって提唱された。受容美学は、ハンス・ゲオルク・ガダマーが「作用史」と名付けた解釈学の影響を受け、当時の政治的アンガージュマンの文学などに代表される文学領域の多様化にあって、戦後ドイツにおいて主流であった文学作品を自律的対象物とみなす「作品内在解釈法」と対置するかたちで、作品と作者と読者(受容者・解釈者)の相互作用の考究に主眼を置いた。ヤウスは、67年の教授就任講演をもとにした『挑発としての文学史』において、文学の社会的、コミュニケーション的機能に着目し、作品の解釈を「期待の地平」という視点から分析した。そのようなヤウスの受容理論に対して、ローマン・インガルデンの「無規定箇所」の影響が見られるイーザーの『行為としての読書』では、テクストの「潜在的な作用力」に着目し、虚構テクストの指示性や、空所が備える不確定性が読者に与える作用について論じている。また、文学研究に端を発する受容美学を絵画作品の分析に応用した人物として、ヴォルフガング・ケンプが挙げられる。ケンプは描かれた対象と、作品外の社会との相互作用に着目し、絵画がもつ空所の機能を分析した。そこには、既存の解釈学に見られる画一的な解釈への懐疑や、学問的な制度自体への批判が垣間見え、そのような美術史学に対する問題意識は、現代では美術史研究において広く共有されていると言える。

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参考文献

『挑発としての文学史』,ハンス・ロベルト・ヤウス(轡田收訳),岩波現代文庫,2001
『行為としての読書 美学作用の理論』,ヴォルフガング・イーザー(轡田收訳),岩波書店,2005
『文学的芸術作品』,ローマン・インガルデン(瀧内槇雄、細井雄介訳),勁草書房,1998
『レンブラント《聖家族》 描かれたカーテンの内と外』,ヴォルフガング・ケンプ(加藤哲弘訳),三元社,1992