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ディズニーランダゼイション

Disneylandazation
更新日
2024年03月11日

「ディズニーランド化」の意で、1980年代以降、日本中で造られはじめた過剰に装飾化された公共建築のキッチュな外観を指して、中川理が著書『偽装するニッポン 公共施設のディズニーランダゼイション』(1996)のなかで命名した。日本の公共建築を象徴するイメージは、《旧東京都庁舎》(1957)や《旧香川県庁舎》(1958)といった丹下健三による一連の庁舎建築に代表されるようにグレーで無装飾のモダニズムデザインとして形成された。しかし70年代になると、そうしたモダニズム建築は画一的、均質的と批判され、公共建築に「親しみやすさ」が求められるようになった。そうした流れは80年代になると、「建築費の1%上乗せにより、公共建築物へ文化性を付与する」ことを義務づける地方自治体の1%事業、中曽根康弘首相による民活路線、竹下登首相による「ふるさと創生事業」などの行政プログラムや政策によって後押しされた。ディズニーランダゼイションと同時期に流行したポストモダン建築は、機能主義に貫かれたモダニズム建築に対する批判であり、両者に共通する点は多い。後者が設計する建築家の作家性が前面に出ているのに対して、ディズニーランダゼイションは行政主導で進められるため匿名的なものがほとんどである。ディズニーランダゼイションは饒舌な意匠を有するという意味で、ロバート・ヴェンチューリらが『建築の多様性と対立性』(1966)や『ラスベガス』(1972)で言及した建築群とも共通項を持つが、消費を喚起させる看板をそのまま建築化したようなアメリカの商業施設に対して、日本では「かわいい」といった嗜好のデザイン化、または観光の手法の応用が行なわれている。商業主義が突き動かしたディズニーランダゼイションは、モダニズム建築以降の消費社会のなかで、逆説的に建築の新たな公共性について考える足がかりとなったといえよう。

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補足情報

参考文献

『建築文化』1992年11月号,特集1=公共建築のディズニーランダゼイション,彰国社
『偽装するニッポン 公共建築のディズニーランダゼイション』,中川理,彰国社,1996
『終わりの建築/始まりの建築 ポスト・ラディカリズムの建築と言語』,五十嵐太郎,INAX出版,2001