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《泥に挑む》白髪一雄

Doro ni Idomu, Kazuo Shiraga
更新日
2024年03月11日

具体美術協会が1955年の10月に東京の小原会館で開催した第1回展にて、美術作家の白髪一雄によって行なわれたパフォーマンス作品。左官業者と交渉して約1トンの壁土を会場の入口付近に持ち込んだ白髪は、雨が強く降るなかで、裸になり、髪をGI刈りにして、泥に飛び込んだ。ポロックのアクション・ペインティングを連想させるこのパフォーマンスは、ポロックのように水平面のキャンヴァスを用いる代わりに、泥と格闘するものだった。ここには白髪固有の芸術観が反映している。白髪によれば、人は生まれついてもっている「質」に、他人から奪って得ることのできる後天的な「質」を加えることで「肥る」ものである。この「肥る」過程は、思考行為によって無形に表現されることもあり、また肉体行為によって有形の表現として示されることもある。その行為においては、「生きる現実を受けとめ又生み出す人間の神経」を大切にし、また自分の人間としての質を信じて「一生懸命やる」ことが一番大事だと白髪は述べている。《泥に挑む》は、こう語る白髪の創造の意志や勇気の産物であると考えられる。具体美術協会の同人である金山明は「今や白髪君は全身で絵を描きました、彼の創作への貪欲さは、足でふんばって描くまどろこしさから、五体の感覚にうったえて描き度い意欲にまでたかまったのです」とその印象をまとめている。

著者

補足情報

参考文献

『復刻版 具体』,「具体4」(特集=第1回具体展),芦屋市立美術館監修,藝華書院,2010