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ノイズ

Noise
更新日
2024年03月11日

本項目は音楽におけるノイズについて説明する。音楽におけるノイズは、慣例的に楽音とみなされる体系の外側に位置づけられ、しばしば異質性や過剰性、偶発性と結びつけられる。ある音をノイズとして意識化し、新たな音素材として取り込む動きは、20世紀初頭には始まっていた。イタリア未来派のL・ルッソロはその先駆者であり、自動車や工場、戦争兵器の騒音を用いて、不協和音の解放という同時代的動向を押し進めようとした。環境音の取り込みは、J・ケージの《4分33秒》(1952)で先鋭化し、聴衆は枠のなかで生じるあらゆる物音を音楽として聴くよう促される。テクノロジーの進展も重要な要因となる。1950年前後、各地で電子音響の実験が始まり、P・シェフェールは電気的に変質させた騒音によるミュジック・コンクレートを創始、K・シュトックハウゼンはサイン波を用いて《習作I/II》(1953/54)を制作した。また、エレクトリック・ギターのフィードバック奏法、レコードのスクラッチ・ノイズや磁気テープのヒス・ノイズなど、機械の正規の用途から逸脱するかたちで生じた音も新たな表現手段として活用された。ノイズは、70年代後半にイギリスで興隆したインダストリアルや、80年前後から日本で生じたノイズ・ミュージックにおいて、ジャンルとしての自立をみる。後者は「ジャパノイズ」と称されることもあり、メルツバウや非常階段といった多くのアーティストが世界的に高い評価を受けている。もっとも、ジャンルとして確立された後も、上述した素材の発見と取り込みという動きが収束したわけではなく、デジタル装置のグリッチのように、ノイズは予測不可能なかたちで見出され、音楽の展開に不可欠のものであり続けている。

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補足情報

参考文献

『ノイズ・ウォー ノイズ・ミュージックとその展開』,秋田昌美,青弓社,1992
『ノイズ 音楽/貨幣/雑音』,ジャック・アタリ(金塚貞文訳),みすず書房,2012
『ノイズ/ミュージック 歴史・方法・思想 ルッソロからゼロ年代まで』,ポール・ヘガティ(若尾裕、嶋田久美訳),みすず書房,2014
Listening to Noise and Silence: Towards a Philosophy of Sound Art,Salomé Voegelin,Continuum,2010
『シュトックハウゼンのすべて』,松平敬,アルテスパブリッシング,2019
Noise,Water,Meat: A History of Sound in the Arts,Douglas Kahn,The MIT Press,1999
『ジャパノイズ サーキュレーション終端の音楽』,デヴィッド・ノヴァック(若尾裕、落晃子訳),水声社,2019