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ノイズ(映像)

Nois
更新日
2024年03月11日

映像におけるノイズとは映像信号の乱れを意味する。映像作品においてノイズを意図的に使用することは、フィルムでは、1950年代にはモーリス・ルメートルによるレトリスムのディスクレパン映画や、スタン・ブラッケージなどの実験映画におけるスクラッチなどに見られたが、ヴィデオではそれをより主要な表現要素として展開した作品が見られる。ナム・ジュン・パイクによる最初のヴィデオ・アート作品『プリペアドTV』(1963)は、TVを磁石で変調させ、ノイズ化させたものであった。ヴィデオにおけるノイズは、制度的でクリアーな映像に対する反体制的でノイジーな映像という、ヴィデオのアート性やオルタナティヴ性の表現として多用されてきた。ヴィデオでは、最近のデジタル化までは高価な業務用・放送用機材などを使用しない限り、ノイズの発生は不可避なものであった。ヴィデオ・アーティストはこのようなノイズに注目し、それを表現の域にまで高める作品を制作してきており、その代表的なものはヴィデオ・フィードバックを使用した作品である。デジタル映像機器が普及した近年は、クリアーな映像が氾濫して、ノイズが映像の世界から消えてしまったようにも思われる。そうしたなか「サーキット・ベンディング」と呼ばれる、市販のヴィデオ機器の電子回路をさまざまに加工し、映像や音声を変調させるムーヴメントが欧米を中心に現われつつある。また、アナログな映像機器のノイズが持つ偶然性や先鋭性を利用した表現を行なうヴィデオ・アーティストたちも現われてきている。

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参考文献

『ヴィデオ 再帰的メディアの美学』,イヴォンヌ・シュピールマン(海老根剛監訳、柳橋大輔、遠藤浩介訳),三元社,2011
The World of Nam June Paik,J. G. Hanhardt,Guggenheim Museum Publication,2000
JEUNE,DURE ET PURE! – Une histoire du cinéma d’avant-garde et expérimental en France,Nicole Brenez,Christian Lebrat,Cinémathèque Française,2000