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野口体操

Noguchi-taiso
更新日
2024年03月11日

東京藝術大学教授でもあった野口三千三が創始した体操。野口晴哉が創始した野口整体とは異なる。戦時中にデンマーク体操に興味をもっていた野口は、日本でモダン・ダンスを広めた江口隆哉と宮操子の舞踊研究所に1946年から通うようになるが、芸術というよりも体操だと評され、東京藝術大学へ赴任するのを契機に、野口体操を創案し始めた。意識的に使う余計な力を抜けば本当に必要な働きを作る力が出るというのが野口の基本とする考えであり、そうした考えからこの体操は「脱力体操」「こんにゃく体操」などとも言われた。この体操はオリンピック競技に象徴されるようなスポーツのあり方、理性主義、普遍主義あるいは科学主義と対極をなす。生体は流体であり、皮膚という伸び縮み自由な生きている袋のなかに液体(体液)が満ちていて、そのなかに脳も筋肉も骨も浮かんでいるというイメージが、野口体操の基本的な身体観をなしている。自然な動きを目指し、動きの技巧性を退けつつ、どういうふうに動くかは体に決めてもらう。野口は「からだに貞(き)く」という表現を用いている。野口体操はしたがって、自分自身の体の動きの実感を手掛かりに、人間(自然・自分)とは何かを探究する営みである。

著者

補足情報

参考文献

『原初生命体としての人間 野口体操の理論』,野口三千三,岩波書店,2003
『アーカイブス野口体操』,野口三千三、養老孟司、羽鳥操,春秋社,2004
『野口体操入門 からだからのメッセージ』,羽鳥操,岩波書店,2003