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「俳優と超人形」エドワード・ゴードン・クレイグ

“The Actor and the Über-Marionette”, Edward Gordon Craig
更新日
2024年03月11日

演出家で雑誌『仮面(The Mask)』の創刊・編集に携わったエドワード・ゴードン・クレイグが、1907年に執筆した彼の代表的論考。後の演劇理論に多大な影響を与えた。『劇場の芸術について』(1911)に所収された本論のなかで、クレイグは俳優のあり方を批判的に検討し、それによって新しい演劇の進路を定めた。クレイグにとって「演技は芸術ではない」。なぜならば俳優は、人間の身体を素材とする限り、計算可能な素材を用いる芸術にとって敵である偶然性を含んでいるからである。また、クレイグは役になりきろうとする俳優を批判して、演劇が他の芸術と同等であろうとするならば、役者は単に生きているものの再生品であってはならず、表現すべき精神的なものの担い手であるべきと考えた。こうした非再現的な俳優像からは、当時恋愛関係にあったイサドラ・ダンカンの影響とともに、運動を重視するクレイグ独特の演劇観が垣間見える。また、既存の俳優像を乗り超える存在として「超人形」という概念が想定されている。これは、単に人間でも人形でもなく、楽器あるいは機械や土のように死んだ素材につくりかえられた演技体を指している。「血肉をもたないトランス状態の身体」とも呼ばれるこの「超人形」に、クレイグは古代寺院の神を象った石像のイメージを重ねているが、それはまたH・クライストやE・T・A・ホフマンなど100年ほど前のロマン主義における人間観・人形観を彷彿とさせる。直接的な影響は、未来派演劇(F・T・マリネッティ、E・プランポリーニ)のうちに認められるが、A・アルトー、J・グロトフスキ、T・カントール、R・ウィルソンらの演劇からもつながりを見出すことができる。

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補足情報

参考文献

On the Art of the Theatre,Edward Gordon Craig,BiblioBazaar,2009
『ゴードン・クレイグ 20世紀演劇の冒険者』,エドワード・クレイグ(佐藤正紀訳),平凡社,1996