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美容整形

Cosmetic Surgery
更新日
2024年03月11日

形態学的には正常範囲内にあるが、美容のために整形外科的手技、あるいは他の物理的手技を用いて実施する整形術のこと。歴史的には美容整形は身体の欠損を治療するための医療(「再建手術」)としての側面が強く、その技術が発展したのも第一次大戦期における戦傷兵の治療技術としてである。多くの論者の間で近年は特に先進国を中心に美容整形に対する抵抗感が希薄化しつつあるとされている。また美容整形を含む身体加工に対する抵抗感にはキリスト教や儒教といった宗教的文化の影響が強いとされる。こうした文化的・社会環境的禁忌に対して美容整形はある種の「欠損」としての動機を得るために美醜を心理学における「劣等感」と結びつけることで倫理的動機を得た。1920年代のアメリカではこの劣等感学説が広く浸透しており、その後の美容整形普及の端緒になっている。日本やアジア諸地域でもこの劣等感学説は「コンプレックス」などのタームに置き換えられて流通しており、韓国の若者を対象とした意識調査に基づく研究でも、身体満足度と自尊心の相関関係が認められている。他方、近年では美容整形の動機として「劣等感」という他者との関係ではなく、「自分(だけ)のため」という意識が高まっているという研究もあり、美容整形に関する言説は多様化しつつある。また、現代美術の分野では、パリのボディ・アーティストのオルランは90年から「surgical operation-performance」と題して自らの顔を、パーツごとに異なるモチーフに基づいてコラージュ的に整形し、その過程を記録展示するというパフォーマンスを行なっている。サイボーグ論研究者の高橋透はオルランを評して「整形によってさまざまな様相・容貌を受け入れながらも、それ自身は何の規定ももたず、空虚な身体」と述べている。「劣等感」に回収されないある種の過剰さを備えた彼女のパフォーマンスはしかし、同時に見られることの極地にもある。

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参考文献

『プラスチック・ビューティー 美容整形の文化史』,エリザベス・ハイケン(野中邦子訳),平凡社,1999
『サイボーグ・エシックス』,高橋透,水声社,2006
『美容整形と化粧の社会学 プラスティックな身体』,谷本奈穂,新曜社,2008
『日本家政学会誌』Vol.56、No.2,「韓国10代の青少年の自尊心と身体満足度が整形や服装行動に及ぼす影響」,劉敬淑、全璟蘭,2005