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ライヴ・コーディング

Live Electronics
更新日
2024年03月11日

ライヴ・エレクトロニクスとは、演奏時にリアルタイムに、電子的あるいは電気的に、音響を発生させて変調させる音楽のことである。磁気テープに固定する「電子音楽」ではなく「生演奏されることを念頭に置いた電子音楽」(トマス・ホルムズ)として登場した。ライヴ・エレクトロニクスの歴史的背景には二つの要請があった。ひとつは、スタジオで磁気テープに固定される電子音楽では「排除」されていた、生演奏という人間のリアルタイムな反応を音楽作品のなかに復活させたいという要請である。この意味では、ライヴ・エレクトロニクスは1950年代の電子音楽の進化形である。またもうひとつは、演奏時の最終的な音響結果を不確定なままにしておこうとする、J・ケージ的な不確定性の要請である。ライヴ・エレクトロニクスとして言及される作品に、ケージの《カートリッジ・ミュージック》(1960)や、ソニック・アーツ・ユニオンの4人の作曲家による作品がある。ライヴ・エレクトロニクスは、演奏時にリアルタイムに音響を操作できるがゆえに、ケージ的な「演奏において不確定な音楽作品」を実現するのに都合のよい音楽形態として活用されたと言えるだろう。とはいえ、テクノロジーが発展し、エレクトロニクスを用いてリアルタイムに音響操作することがとりわけ難しいことではなくなってからは、「ライヴ・エレクトロニクス」という名称を使うことにはほとんど意味はないかもしれない。あくまでも、最終的な音響結果を磁気テープに固定しなければならなかった電子音楽の次に登場したエレクトロニクス音楽として、歴史的に過去の電子音楽の一形態として理解すべきだろう。

補足情報

参考文献

『遙かなる他者のためのデザイン 久保田晃弘の思索と実装』,久保田晃弘,ビー・エヌ・エヌ新社,2017
『演奏するプログラミング、ライブコーディングの思想と実践 Show Us Your Screens』,田所淳,ビー・エヌ・エヌ新社,2018
The Oxford Handbook of Algorithmic Music,Alex McLean、Roger T. Dean,Oxford University Press,2018
Speaking Code: Coding as Aesthetic and Political Expression,Geoff Cox,Alex McLean,The MIT Press,2012