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陸屋根

Flat Roof
更新日
2024年03月11日

陸屋根とは、水平、または勾配が極めて小さい屋根のことをいう。伝統的な構法を用いた建物では、年間を通じて降雨量が少ない地域などでしか見られなかったが、鉄筋コンクリート造の建物が登場して以降の近代建築では、陸屋根は多用されることとなった。また、陸屋根では人の歩行が可能となるため、屋上の積極的活用が可能となる。ル・コルビュジエによる「近代建築の五原則」のうちのひとつである「屋上庭園」も、陸屋根を前提としたものであった。
なお、ル・コルビュジエによる陸屋根は、当時ヨーロッパで普及しはじめていたセントラル・ヒーティングと深く関係していた。1927年に書かれたル・コルビュジエによる小論には、伝統的な庇を持つ勾配屋根を用いた建物でセントラル・ヒーティングを採用すると、屋根の下の暖められた空気によって溶け出した雪が、庇で再び凍結して堰をつくり、そこに溜まった水が室内に漏れ出す「すがもれ」という現象が起きたが、陸屋根を用いた建物では、こうした問題は生じない、との趣旨の記述が存在する。つまり、地域などの特殊性を超えた世界共通様式として位置付けられた「インターナショナル・スタイル」の代名詞のように目される陸屋根も、その啓蒙の過程では、ヨーロッパの気候的特性や、当時の技術的状況を踏まえた説明がされることが少なからずあったのである。

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補足情報

参考文献

『a+u』1979年3月号,「作法としてのディテール3」,安藤正雄、深尾精一,エー・アンド・ユー,1979