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12音技法

Twelve-tone technique/Dodecaphony
更新日
2024年03月11日

予め作曲家によって決められた、平均律の半音階12音による音列で構成する作曲技法。19世紀後半から生じた無調が20世紀に入って先鋭化し、1925年にシェーンベルクが12音技法を考案した。当初は彼の弟子周辺にしか知られていなかったが、1930年代にS・ヴォルペらドイツ・オーストリア圏からの亡命作曲家がアメリカに12音技法をもたらした。日本では1950年代に入ってから入野義朗が12音技法での実作を始めた。調性音楽の場合、ある調を構成する音階内の音は主音や属音といった機能を担い、そこには明確なヒエラルキーが存在する。一方、12音技法では各音の機能や音列内のヒエラルキーは存在しない。平均律上の12音すべてが同等に扱われ、音列内の音の重複や反復を避けることで理論的にも聴覚的にも調性感を回避する。12音技法による音楽は音列の変形と置換からなり、基本形の音列の終点から始まる逆行、音列の第1音を軸にして反転した反行、反行形をさらに逆行させた逆行の反行形の、3つの派生形がある。音列は水平方向、つまり旋律だけでなく、垂直方向にも適用されるので、実際の楽曲の構造は非常に複雑だ。したがって、聴覚のみで音列は把握できない。シェーンベルクの教えに即すと12音技法は上記のように概説できるが、その方法論は作曲家ごとに異なる。たとえば、A・ベルクの12音技法は循環的な配列や反復を頻繁に用いており、シェーンベルクの規範を幾分逸した作法だといえる。シェーンベルクを批判していたストラヴィンスキーは晩年に音列作法をとり入れ、《In Memorial Dylan Thomas》(1954)などの作品を残した。1950年代になると、音列操作をリズム、音の強さなど音高以外のパラメータに敷衍したトータル・セリエリズムが始まる。だが、12音技法はけっして過去のものになったわけではなく、さまざまなかたちで発展させながらこの技法を用いているE・カーターやC・ウォーリネンら、非実験音楽系のアメリカ人作曲家も健在だ。

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参考文献

『シェーンベルクとその楽派』,ルネ・レイボヴィッツ(入野義朗訳),音楽之友社,1965
『戦後の音楽 芸術音楽のポリティクスとポエティクス』,長木誠司,作品社,2010
Twelve-Tone Music in Merica,Joseph N. Straus,Cambridge University Press,2009