バックナンバー
2017年09月15日号のバックナンバー
フォーカス
日本のアーティスト・イン・レジデンス 隆盛のなかでの課題
[2017年09月15日号(菅野幸子)]
現在、日本国内には60以上のアーティスト・イン・レジデンス(以下、AIR)の拠点がある。規模も場所、分野、活動内容もさまざまな多様性があるが、この多様性こそAIRの最大の特長でもあり、面白さでもある。日本では、常に地域振興や住民とのコミュニケーションがプログラムに組み込まれているが、最も重要なのは、AIRとは、アーティストが国境を越えて創作活動を行なう国際的な移動と武者修行を支えるシステムであるということである。
キュレーターズノート
小沢剛《帰って来たK.T.O.》、「コレクション+ アートの秘密 私と出会うための5つのアプローチ」
[2017年09月15日号(住友文彦)]
さすが惑星直列の年である。私の周りもメディアも大型国際展の話題に触れる機会が多く、いつも以上に同時代の美術の動向をあれこれ考える材料が目につく。話題を集める作品やテーマに限らず、国内の各種国際展や芸術祭のほとんどが地域に目を向ける似た傾向が、これを機に注目を集めることにもなるだろう。国外にも地域性を強調した芸術祭は幾多もあるし、それらが目指すものの意義は少なくないどころか「グローバル」な時代に課せられている役割は大きいはずだ。したがって問題は「国際化」か「地域振興」かではない。いまや都市部の国際展も含めて、どこでも同じような傾向を持つようになっているのはなぜなのか。大型予算が投じられる事業ゆえに、文化とは異なる役割や成果を過剰に求められ、結果的にどこも同じように文化事業としての深度を薄められているのではないだろうか。2000年以降に顕著になったこうした動向について、そろそろ議論するのに相応しい時期がきているようにも思える。
もうひとつの美術館「木々の生命」展
[2017年09月15日号(伊藤匡)]
栃木県東部にある人口一万六千人の那珂川町。この街には美術館が三つもあり、それぞれ個性的な活動をしている。浮世絵の馬頭広重美術館、絵本のいわむらかずお絵本の丘美術館、そして、「もうひとつの美術館」である。
トピックス
福島から広がる表現のかたち
──大風呂敷サミット2017シンポジウム「大風呂敷はどこへ行く?」
[2017年09月15日号(山岸清之進/中崎透/アサノコウタ/大風呂敷チーム/藤井光)]
2011年8月15日、東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故のあと、福島市内で開催されたフェスティバルFUKUSHIMA!で、ひとつのアートプロジェクトが生まれた。大風呂敷プロジェクトでは、人々が布を持ち寄り、大きな風呂敷に縫い合わせ、ひろげ、自分たちのための場所をつくる。その後、盆踊りとセットになって、東京、名古屋、岐阜、猪苗代、札幌へとプロジェクトはひろがり、各地で作り手たちのコミュニティが生まれ、イベントごとに脱中心的なネットワークがゆるやかに作動している。
アーティスト主導ではなく、一般の人々が自身の手でアートをつくりだし、共有する場をつくることは可能なのか。アートプロジェクトはコミュニティをどのように生成/継続/再生できるのか。忘却に抗する記憶の継承と問題提起の装置として、芸術文化の形式は時とともにどのような変容をせまられるのか。
緊迫した社会状況のなかで特異なアートプロジェクトとして出発した大風呂敷は、いま、アートが社会や地域と関わるなかで抱える課題への多くのヒントをのせている。(編集:坂口千秋+artscape編集部)