artscapeレビュー
2017年09月15日号のレビュー/プレビュー
《武雄市図書館》
[佐賀県]
いろいろな意味で「話題」の《武雄市図書館》へ。緩やかにカーブさせることで、端部にいても本棚の壁が一覧できる空間とダイナミックな木造の屋根架構である。スタバのエリアはおしゃれで、旗艦店を意識してか、TSUTAYAの品揃えもセンスがよい(都会のTSUTAYAよりも!)。隣には子供図書館を増築中だった。が、本棚最上段のフェイクの背表紙や、マニュアル本の多さなど、図書館としては疑問で、単純に公共建築の「成功」事例とみなしてよいかという疑問は残る。もっとも、対面はyou meタウンで(ユニークな肥前鳥居もあるが)、ファスト風土の地方都市の街並みを見ると、TSUTAYA図書館に人が集まる背景もよくわかるのだが、ほかのオルタナティブはつくれないものか。
写真:肥前鳥居
2017/07/16(日)(五十嵐太郎)
《武雄温泉楼門》
[佐賀県]
佐賀にて、辰野金吾+葛西万司が手がけた《武雄温泉楼門》と新館を見学する。バタ臭い近代の様式建築で知られる彼らが、こうした竜宮城的な和風のデザインを手がけていることが興味深い。例えば、新館は複数の千鳥破風と唐破風、花頭窓をシンメトリカルに配し、とても賑やかな外観である。そして入口の楼門をくぐる際に見上げると、なんと折り上げ格天井で思わずのけぞった。ちなみに、佐賀は辰野の故郷である。
写真:上=《武雄温泉楼門》 下=新館
2017/07/16(日)(五十嵐太郎)
《久留米シティプラザ》
[福岡県]
着工前にレクチャーで関わったプロジェクトということもあり、完成した姿を見るために、香山壽夫らによる《久留米シティプラザ》を訪れた。横浜のKAATなど、香山による他のホールとの共通点も多いデザインだが、むしろ異なる部分が興味深い。これはアーケードに隣接する、閉鎖した百貨店の建て替えプロジェクトであり、中心市街地の空洞化を避けることも意図していた。ゆえに、端部の大きな屋外広場を抱え込みながら、透明性が高いデザインによって市民への開放をより強く打ち出した点に現代性が感じられる。大ホールのホワイエも閉じられた空間ではなく、通行人が行き交う場所になっている。
写真:上=《久留米シティプラザ》外観 左上=屋外広場 左下=大ホール 右下=大ホールのホワイエ
2017/07/16(日)(五十嵐太郎)
《熊本県立装飾古墳館》
[熊本県]
安藤忠雄の《熊本県立装飾古墳館》に向かう。到着してすぐ目に入る駐車場の横のトイレが幾何学的なデザインで、まずカッコいい。建物本体も、円を描くスロープ沿いに、古墳群を眺める展望台と地下の屋外展示(音の回廊としても響きがよい)をつなぎ、まさに空間を歩く体験を楽しめる。こうしたランドスケープと絡む建築は、安藤の腕の見せ所だろう。20世紀の抽象絵画を思わせる古墳内部の装飾を、レプリカの空間再現によって見せる展示の内容も面白い。
写真:左上2枚=《熊本県立装飾古墳館》のスロープ 右下=トイレ 左下=内部展示
2017/07/16(日)(五十嵐太郎)
《旧熊本逓信病院》《熊本北警察署》《熊本大学》
[熊本県]
解体工事を予定しており、もうすでに周囲が塀で囲われた山田守による《旧熊本逓信病院》を訪れた。塀越しで全体像が少し欠けていても、山田らしい衛生陶器モダニズムの優れたデザインは十分に伝わるのだが、驚かされたのは建物の背後にまわってみても、立体的な造形の組み合わせが面白いこと。これほど後姿もチャーミングな建築もめずらしいのではないか。現在も続く熊本アートポリス(KAP)の事業には頭が下がるが、この名建築の解体はもったいないように思う。続いて、KAPの第一号となった篠原一男の《熊本北警察署》(外観はいかついが、内部をよく見ると、エントランス・ホールの装飾や家具はなにげにかわいい)に立ち寄ってから、熊本大学のキャンパスへ。明治20年代の五高資料館、旧化学教室、正門など、いくつかの近代建築がきちんと残っている。ここまで古い建築が現存する日本の大学はもうほとんどないだろう。
写真:左上2枚=《旧熊本逓信病院》 右下2枚=《熊本北警察署》 左下=《五高資料館》
2017/07/16(日)(五十嵐太郎)