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2023年12月15日号のバックナンバー

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フォーカス

【ウィーン】3組のアーティストに見る、デコロニアリズムの実践のつながり

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[2023年12月15日号(丸山美佳)]

11月16日、ドクメンタ16の芸術監督選考委員全員が辞任するなど、現在の西欧社会におけるパレスチナ問題と反ユダヤ主義を取り巻く議論は、去年のドクメンタ15が引き起こした論争や反発以上に不穏な雰囲気をまとっている。オーストリアにおいても、パレスチナに連帯を示す声に対する、大学や美術館といった公的機関からの暗黙的でありながらも、露骨な圧力と検閲が身近なものとなり、全体主義的風潮が生活のなかへと浸透してきている。
世界大戦後の全体主義への批判だけでなく、ポストコロニアルリズムによる植民地主義への反省や、近年では植民地主義を内包した近代の知識体系から切り離しを促すデコロニアル思想や実践が紹介されるようになった中欧は、皮肉なことに歪な議論とまったくの盲目的な状況が続いている。

価値と手段にあふれた世界で何を作る?──「コンセプト」をめぐる漂流と功罪

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[2023年12月15日号(津久井五月)]

「コンセプト」の一語は、古くも新しい概念として問い直すことができるのではないか。その概念は、アート領域における20世紀のデュシャンに端を発するかたちで、表現媒体やジャンルを超える拡がりを獲得してきた。表現活動でも事業的な活動でも「コンセプチュアルであること」が価値を帯びるなか、現在においてはコンセプトを表現するための技術的な手法がますます安価かつ簡便なものになっている。一例だが、生成AIが登場したことで、何らかのインプットを何らかのアウトプットへと変化させることが極めて手軽になったため、相対的なコンセプトの価値は高まり続けてもいるだろう。
今回はSF作家の津久井五月氏に寄稿を依頼し、コンセプト概念についてエッセイのかたちで思索を深めていただいた。建築設計の専門的な背景をもつ氏は『コルヌトピア』という都市SFでデビューを飾ったのち、アートやデザイン領域での制作にも接するなかで、SFのエッセンスを越境的に表現してきた作家である。(artscape編集部)

キュレーターズノート

「アートしている」人たちが確かに地域にいること──万田坑芸術祭と「おぐに美術部と作る善三展『好きなものを好きって言う』with 森美術館」からの風景

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[2023年12月15日号(坂本顕子)]

万田坑とは、かつて熊本県荒尾市と福岡県大牟田市の県境にまたがるかたちで位置し、操業した三池炭鉱の代表的な坑口のひとつである。明治から昭和初期にかけて多数の石炭を産出し、日本の近代化を支えた。戦後、徐々に合理化が進められ、1997年に閉山したが、2015年には「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭作業」の構成資産として世界文化遺産に登録された。
万田坑のシンボルは、18.9メートルの高さがあり巨大な滑車で人や資材を地下へと昇降させていた第二竪坑櫓である。そのほか、ケージを巻きあげる巻揚機室、坑内の安全を祈願する山ノ神祭祀施設などが国の重要文化財に指定されており、来場者はガイドスタッフの案内で、周辺や内部を見学することができる。また、採掘した石炭を直積するために三池港が築港され、専用鉄道が引かれるなど、日本最大の炭鉱跡地として、現在保存・整備活動が継続して行なわれている。

万田坑芸術祭」は、それらの万田坑跡地をフィールドとして、国内外で活躍する井上修志、長野櫻子、牛嶋均、森本凌司ら4人の現代美術作家をアーティスト・イン・レジデンス形式で招聘し、初めて行なわれている現代美術展である。ガイドスタッフによる歴史に基づいたわかりやすい説明とパラレルなかたちで、ふと立ち止まって、歴史や風景を想像し直してみるような作品が展開されている。

アート・アーカイブ探求

作者不明《長沙馬王堆一号墓出土帛画》不死のパラダイス──「曽布川 寛」

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[2023年12月15日号(影山幸一)]

artscapeレビュー

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