Dialogue Tour 2010

第1回:梅香堂のはなしを聞く@Midori Art Center(MAC)[ディスカッション]

後々田寿徳/服部浩之2010年08月15日号

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ロスジェネ世代

服部──後々田さんは、ロスジェネ世代のアーティストに興味があるって言われていたと思うんですけど、それってどういうことなんですか。

後々田──あんまり深い意味はないんだけどね。ロスジェネ世代といっても定義自体も曖昧だし。だいたい1970年代半ばくらいから1980年代前半くらいに生まれた人だと思うんですけど、僕なんかある意味、ネオ・ロスジェネ世代になるわけですよ。つまり、リストラされて、もう絶対仕事がないというところで。
 世代的な話をすると、一応コマーシャルギャラリーを目指しているので、いまの若い人を発掘に行かなきゃいけないと、関西の美大とか芸大とかの芸祭だとかに行ったわけですよ。するともう、いまの学生たちの作品を見て驚くわけです。もう完全に商品なわけですよね。東京からコマーシャルギャラリーが来て、買って、学部生のときからギャラリーつきの作家になっているという。いまの若い世代というのは、そういうコマーシャルが前提なんですね。つまり25歳以下、ゆとり世代ですよね。作品は売れるのが当たり前という時代になってきているんですよね。美大に務める友達なんかに聞くと、先生のいうことなんか絶対聞かないらしいんですよ。「だって先生の絵、売れないでしょ。僕の絵のほうが売れるから」っていう。

服部──それは市場原理主義なんですか。

後々田──そう。市場原理主義なの。僕もそれを見たときに、本当に素晴らしい作品だと思いました。もう本当に商品なんです。でも、「ああ、僕はこういうのを青田刈りして売るくらいだったら辞める。もうこの仕事やりたくない」と思いました。そういうところでできた世代というのは、たぶんロスジェネ世代とは違うと思うんですよね。服部くんたちの時代にそんなことはたぶんなかったはず。それよりさらに上の世代、つまり僕の世代よりひとつくらい下かな、その世代というのは、当然作品なんかはまったく売れもしないし、売れなくて当たり前みたいななかで、修道士みたいにコツコツと作品をつくるみたいなところがあったと思うんですよね。そういった世代と、いまの若いイケイケの人の世代の、あいだの世代を、僕はいわゆるロスジェネ世代というふうにとらえているんです。どっちにも吸収されない、ちょうど不思議な、10年弱くらいの人たちの表現が非常におもしろいなと思っている。特に作家だけじゃなくて、それは服部くんみたいな送り手というか、今回の8カ所のほとんどの人もそこに入ってくるんじゃないかなと思うんですよ。それはたぶん僕とはちょっと動機が違って、自分たちがやりたいこと、あるいは見たいことをやるためにつくっているというのが、きっかけになっているんじゃないかな。その世代というのは、いまのコマーシャルにも入らないし、その上の大きなフェスティバルとかに呼ばれるような割とメジャーな作家にも入らない、どっちにも収まらないちょうどそのへんの人たちが、けっこうそこの世代に集中しているという感じがあるんです。だから、その人たちがちょっと気になるというか、そこが僕のいうロスジェネ世代の気に仕方みたいな。
 今日きてくれている、国際芸術センター青森で「24 OUR TELEVISION」をやったNadegata Instat Party(中崎透+山城大督+野田智子)も同じような世代ですけど、表現が直球じゃないというか、一見直球には絶対見えないというか、それはやっぱりすごく大事なことなんじゃないかという気がします。本当はやりたいのにやらないのか、それとも初めから変化球しかやらないようにしているのかというのは、本人たちにとってもなかなか微妙なところなんじゃないかなとも思っています。まあ、それもこの世代独特の価値観があるなと思いますね。この世代の作家たちと話をすると、なかなか直球の答えが返ってこないことが多くて。別に恥ずかしいとか、わからないとかじゃないんですけど、なんかちょっと違う感じのリアクションが返ってくるときがある。まあ、中崎くんたちは、さらにちょっとひねくれているところがあって、かなり頭脳的なんで、捕らえにくいところがあるんですけど。ある意味では一見、現代美術の王道みたいなものから遠くにいそうに見えて、じつは王道を進もうとしている連中だとは思いますけれどね。

服部──どういうことなんでしょうね。

後々田──もういいんじゃないのこの話は(笑)。よくわかんないまま、思いつきで言っている部分もあるし。「ロスジェネ世代の」っていうのは、僕はじつは個人的には大事なことだと思うんだけど、でも別に深くあれすることでもないかなあとも思っています。

見てほしいひと

鷲田めるろ──後々田さんは梅香堂をされていて、人を巻き込んでいきたいという思いがありますか、それとも、ひとりでできるならそのほうが楽だと思っていられるのですか。

後々田──それは運営上?

鷲田──全体の運営だったり、あるいはひとつの展覧会やイヴェントを企画したりするときに、地元の人や、そこによく通ってくれる人、応援してくれる人と一緒にやっていきたいなというスタンスでいらっしゃるのか、それとも、ひとりでいろいろ考えてゆっくりやっていくほうが性に合っているなあというか。

後々田──それは別にどっちでもいいという感じがあるよね。最近もよく来てくれる地元のお客さんで、障害者の授産施設で絵を描いたりしている人たちがいて、まあそういう人たちにもぜひ見に来てほしい。ただ、一緒になにかやっていこうというほどのバイタリティは僕にはもうないから、あくまでもそれは受身に近くなっちゃうと思うんですけどね。まちおこしをやろうとか、地域活性化をやろうとか、それどころじゃないというのはあります。ただ、別に拒否はしない。

服部──近所の人は来ますか。

後々田──3分の1くらいは近所の人。

服部──それはおもしろいですね。

後々田──地元の梅香だとか此花に住んでいて、美術とかそういうのは関係ない人。

服部──そういう人とはどういう話をするんですか。作品の説明をするんですか。

後々田──説明するとけっこう鋭いリアクションとかが来たりね。嬉しかったのは、「この文化果てる大阪のなかでも柄の悪いとされる此花区で、こういう場所ができたことは本当に嬉しい」とか言われたことが何回もあること。それだけ土地の特色というか、やっぱりまだ独特の文化を残しているところだから、地元の人からは「どうしてここでやるんだ」「最悪のシチュエーションを選んで、なぜそんなことをやるんだ」ということをよく言われた。でも、大阪以外の人から見たらそんなことわからないでしょ。そこがそんなところだとかということは知らないんだから、駅から近いとか、場所がわかりやすいとか、そういったことのほうが重要だと思うんですけどね。やっぱり地元の人はそういうことを思わないからね。

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  • Dialogue Tour 2010とは

後々田寿徳

1962年生まれ。梅香堂主。名古屋芸術大学非常勤講師。法政大学大学院修了(社会学)。福井県立美術館、NTTインターコミュニケー ション・セン...

服部浩之

インディペンデント・キュレーター。1978年生まれ。2006年早稲田大学大学院修了(建築学)。2009年-2016年青森公立大学国際芸術セン...