本展では、衣裳デザイナー、スタイリストとしてエミー賞受賞やアカデミー賞ノミネートなど華々しいキャリアを誇るパトリシア・フィールドが、半世紀の歳月をかけて蒐集したアートコレクションをご紹介します。

ニューヨークに生まれ育ったパトリシア・フィールドは、24歳の時に初めて自身のブティック「パンツ・パブ」をオープンしました。このブティックは、のちに自らの名を冠した「パトリシア・フィ ールド」となり、イースト・ビレッジを中心に移転を繰り返しながら「ハウス・オブ・フィールド」と呼ばれるコミュニティを形成していきました。「ハウス」は、1970年代以降のニューヨークのアンダーグラウンドシーンで、黒人やラティーノのLGBTQ+コミュニティで「従来の枠組みに囚われず生活を共にする集団がその結束を示す言葉」として使われてきた言葉です。現在も「ハウス・オブ・フィールド」には、パトリシア・フィールドを中心に、彼女のブティックに所属するスタッフやデザイナー、アーティスト、美容専門家、彼女を慕う人々によって構成され、ブティックの重要な要素として変遷を辿りながら現在も維持されています。


このブティックの特徴は、壁やショーウィンドウ、試着室の扉にいたるまで空間全体を彩る個性豊かなアートでした。ハウスにおける母親的存在であったフィールドは、作品を購入し展示することでアーティストたちを支え、アーティストたちもまたフィールドに敬愛の意を込めてポートレートを贈りました。


半世紀にわたって親しまれてきたブティック「パトリシア・フィールド」は、2016年春に惜しまれながら閉店し、このアートコレクションの主要作品約190点が中村キース・ヘリング美術館に収蔵されました。これらの作品は、人間の欲望を包み隠すことなく、むしろそれを誇張しながらポジティブなエネルギーに変換し、自分らしく生きることとは何かを問いかけてきます。パワフルな作品やフィールドを取り巻く人々の煌びやかな装いは、社会構造がもたらす人間の醜さから自らを守る鎧であり、それを身に纏っているのは不条理な社会の犠牲になりながらもそれに抗い続ける人々なのです。