さかい利晶の杜ではこの度、2023年11月15日に87歳で逝去された彫刻家・福岡道雄を偲び、堺市内では初めてとなる個展を開催いたします。

福岡道雄は1936年堺市に生まれます。終戦までの幼少期を中国で過ごし、戦後の混乱のなか帰国。堺市立工業高等学校を卒業後、大阪市立美術研究所にて彫刻を学びます。1958年白鳳画廊での初個展から、関西を拠点に国内外の美術館や画廊にて作品を発表。2005年「つくらない彫刻家」を宣言、独自の表現方法を晩年まで模索し続けました。

堺市収蔵品からは、初個展の出品作品である《SAND9》と、代表的な波の彫刻《マサンダ池》を展示します。《SAND9》は、堺浜の砂に石膏を流しこみ、意図しない造形が生まれることから着想を得た作品群「SAND」シリーズのひとつです。《マサンダ池》は河内長野にあるアトリエの近くの池から名前が取られています。終生、身近な対象をテーマに制作を続けた、福岡独自の視点を想像しながらご覧ください。
60年代、激動の社会情勢の中で「僕のやっていることは世の中の何の役にも立っていないのではないか」 と自問した福岡は、芸術家の役割を「誰よりも先に時を察知する」 ことに見出します。かつてピンク色のバルーンを作っていた60年代を振り返り、「全く異質な不安と危惧を感じ」2002年に制作された《ブラックバルーン》。雌雄同体のミミズが人間社会に警鐘をならす《怒る蚯蚓》など、「前衛」として鋭く時代を見極めた福岡の作品は、混沌とした2020年代に生きる私たちへの問題提議でもあるでしょう。

また、当館の復元茶室「無一庵」にて、陶芸家であるご息女からの依頼で制作された茶道具を展示します。茶の湯文化息づく堺との共通点にもご注目いただけますと幸いです。