1967(昭和42)年10月、中川一政は自身初となる書の展覧会「中川一政書展」(銀座松屋)を開催、74歳のことでした。同月の講演会で中川は「今度書を書き出したが、自分では余技だとは思わない」「絵と同じ気持ちで書いた」と述べています。また、「絵でも書道でも(中略)一度素人に戻り出発しなければ発展性がない」とも言います。これらの言葉は、彼の書が画家の余技ではなく全力の仕事であるとこと、そして彼が人に習った技術ではなく、自分の方法を模索し制作する姿勢を大切にしたことを物語っています。
その自身の書画に押す「陶印」作りから派生するかたちで手掛けた陶芸は、皿や茶碗に始まり、水指、花入、茶入など茶道具に及びます。また絵皿や「陶板」には、大胆に描かれた絵や文字が踊り、書画同源の境地を垣間見せてくれます。いずれも80歳代から90歳代にかけての仕事です。
本展では、中川一政が円熟期から晩年にかけて絵と同様に独学で切り拓き、精力的に取り組んだ書と陶芸を絵画と併せて紹介します。詩書画一致、融通無碍の世界をお楽しみください。