この度cumonosでは松谷博子個展【森のような】を開催致します。
 下絵を描かぬまま漂い流れるように抽象的なイメージを版木の上に刻み付けることで、作家が予想だにしない表情を生み出そうと模索し続けてきた松谷博子さん。シャープな彫り跡のつらなりは均一な黒との対比によって描き出されます。微妙なインクの摺り具合を手作業でじっくりと行うことで、背景の漆黒と鋭い彫り跡が像となって現われていきます。そうして出来上がったイメージは闇の中の緊張感とともに木漏れ日やヴェールのゆらめきのような浮遊感をも喚起させ、観るものをどことも言えない森のような世界へ迷い込ませてくれます。
 是非、松谷博子さんが版画で描き出す世界をご高覧頂けたら幸いです。 /cumonos  


版木を彫ることで生まれるものを大切に、木版画を制作しています。
深く静かな、何もかもを受けとめる森のような、もしかしたら森ではないのかもしれない、曖昧な、でも確かな。
版木と向き合っていると、そんな場所にひとり入り込んでゆくようです。その中を彷徨い、見つめ、耳を澄ますことは、自分と向き合うことでもあります。
そしてその痕跡を紙に刷りとることで、自分からは離れていきイメージはより浮かび上がる、その感覚がとても好きです。
今回、普段のギャラリーとは一味違ったクモノスさんの空間で、今までと違う何かを少しでもつかまえられたらいいなと思っています。 /松谷 博子