福原寛重 "Codex Variabilis"
会期:2025年5月13日(火)〜 6月10日(火)9:00 - 1600 毎日オープン
会場:OM Art × Music(京都府京都市下京区東塩小路町 735-3)
主催:OM Art x Music Gallery

本展「Codex Variabilis(変数の写本)」は、ウィリアム・ブレイクによる詩『無垢の予兆(Auguries of Innocence)』に対する視覚的再解釈を試みるプロジェクトです。詩に刻まれた多義的な予言、無垢と暴力、美と破壊といった相反する概念の交錯は、現代においても強い意味を持ち続けています。そして情報過多の時代において、それらの意味はさらに「可変的(variabilis)」なものとして拡張されていると捉えることができます。

本展では、詩そのものを引用するのではなく、各パラグラフごとに含まれる象徴的断片を抽出し、それらを構造化された視覚モチーフとして再編成しています。具体的には、詩の一節をアルファベットの形に変換し、文字そのものを彫刻的なイメージへと置き換えた独自の書体を制作しました。これは単なるデザインの操作ではなく、言語の意味が構造や形状を通して変質しうることを前提に、視覚的かつ身体的な「詩」を再構築する行為です。

このアルファベットを用いて描かれるメッセージは、『無垢の予兆』とは一見無関係な言葉で構成されています。しかし、その文字の造形そのものが詩の構造や象徴を内包しているため、観者は表層的なメッセージと、その背後に響く詩的残響とのあいだに、ズレと共鳴の両方を体験することになるでしょう。こうして言葉は、意味を伝達するための「道具」から、意味を含んだ「存在」へと再構成され、新たな解釈の対象となります。

本展全体を通して、言語(text)と視覚(image)、詩(poetry)とコード(code)、無垢(innocence)と人工(artifice)といった対概念が交差し、相互に揺らぎながら反転し合う構造が現れます。「Codex Variabilis」とは、決して固定された意味を持つ書物ではなく、詩がアルファベットへと分解され、文字が図像となり、図像が再び言語へと翻訳される——そんな終わりなき変換のプロセスを象徴するものだと言えるでしょう。

『無垢の予兆』という詩の響きと共に、その意味がどのように変容し、再構成され、今という時代の中で立ち上がってくるのか——視覚と言語の交差点から、「読む」という行為を見つめ直す試みをご覧いただければ幸いです。