森鴎外(文久2[1862]-大正11[1922])は、小説『舞姫』を明治23[1890]年1月に雑誌「国民之友」に発表しました。それまで論文や外国文学の翻訳等を主に執筆してきた鴎外が発表した創作小説の第一作目です。この作品は、昭和32[1957]年以降、高等学校国語科の教科書に取り上げられてきたことから、森鴎外という作家を『舞姫』という作品とともに記憶している人も多いことでしょう。
小説『舞姫』は、ドイツから船で帰国途中の青年・太田豊太郎による回想という形をとります。官僚として派遣されたベルリンで出会ったエリスとの恋、自分の学問や将来などを巡る葛藤や悩みとともに、帰国に至ったいきさつが描かれます。
本展では、鴎外生前に『舞姫』が掲載された雑誌や書籍のほか、創作の背景にあった鴎外自身のドイツ留学や当時の反響などに関連する館蔵資料を展示します。
そして、「国民之友」で発表される直前の明治22年末に執筆した自筆草稿(複製)全28枚を展示します。鴎外は『舞姫』を書籍に収録するたびに推敲を重ねており、今日私たちが教科書などでよむ『舞姫』と自筆草稿とを比べると、語句の変更や削除箇所があることに気づきます。手書きの文字や推敲の跡に注目しながらよみ、鴎外が吟味を重ねた言葉を味わってください。