中川一政(1893-1991、文化勲章受章者)は、97年の生涯に絵画だけにとどまらず書や陶芸、文芸など多岐にわたる創作活動を展開しました。陶芸は70歳代半ばを過ぎた頃からの仕事です。
 陶印制作から始まった陶芸は、茶碗や陶板画、そして茶陶へと広がりを見せます。茶道具を作るうちに、次第に「お茶」への興味が高じて、90歳代には幾度も茶事を催すようになりました。床の間に自作の書画を掛け、自身の制作した茶道具を用いて人をもてなし、自らも愉しんだのです。制作は、茶碗だけでなく、花入や水指、茶入、そして風炉や釜にまで及びます。いずれも雄々しく、ときに型破りではありますが、そこに中川が希求した稽古事とは一線を画す「婆沙羅(ばさら)の茶」への眼差しが感じられます。
 本展では、絵画や書作品と併せて、こうした茶道具を中心に展観し、とらわれのない境地で遊ぶが如くの中川一政の陶芸の世界を紹介します。