『Lines of Infinity(無限の線)』は、ダイ・インの東京における初の展覧会となる。北京とニューヨークを拠点とするダイ・インは、伝統的な中国の書や水墨画の精神、その技法を採り入れつつ、現代的な抽象表現、マテリアルの実験、そして精神的な探究を深めるクロスメディア・アーティスト。幼少期からの書道の鍛錬は、彼女をして「線」を静的な形態ではなく、呼吸、リズム、時間感覚、動作の痕跡として理解せしめた。それは現在も彼女の制作に通底する基盤となっている。

ダイ・インの芸術言語は、多層にわたる制作プロセスと循環的な構造に根差している。おもに中国の宣紙、絹、油絵具、中国画の顔料および日本の顔料、アクリルなどを用いながら、東洋的な素材の伝統を西洋の媒体と対話させ、反復的な染色や塗り込み、身振りを連想させる筆致の介入、などを通して複雑な表層を構築していく。螺旋状の形態、流れるような線描、変転する密度が作品の中に繰り返し現れ、エネルギーの循環、生命のサイクル、ひいては身体、自然、宇宙が互いに浸食しあう様を想起させる。彼女の実践は、抑制と感情の大胆な発露との狭間を自在に行き来し、素材が浸透し、重なり合い、変容することで、作為的でありながらも有機的な作品として結実してゆく。

ダイ・インの作品は女性の主体性、集団的記憶、個の存在とより広範な社会・宇宙的構造との関係をコンセプトとしている。自身が「地母性(ジオ・マターナル)」と呼ぶところの長期的な研究は、女性性を固定されたアイデンティティとしてではなく、包括性、連続性、そして再生を強調する「生み出す力」として位置づけている。ダイレクトな物語(ナラティブ)を提供するというよりは、作品は感性の磁場として機能する。絵画を完結したイメージではなく、動的なプロセスの体験として鑑賞者をいざなう。

今展では、ダイ・インの作品は草間彌生と田中敦子の数点の作品と並置される。歴史的・文化的文脈は異なるものの、反復、身体的実在、見えなき力の可視化、といった共通項で彼女たちの作品は共鳴しあう対話を形成している。展示は比較や時系列的推移ではなく、時を超えてエネルギーが呼応しあう空間を創出することを目指す―芸術表現は収斂しては増幅し、境界なき無限の可能性へと向かうのだ。