武者小路実篤は、明治43(1910)年4月に志賀直哉、有島武郎らと共に雑誌『白樺』を創刊して世に出て、90年の生涯で多くの作品と業績を残しました。
小説、戯曲、人生論、雑感や詩など7,000篇もの文学作品だけでなく、40歳を前に書画の制作にも本格的に取り組み、その作品は昭和30-50年代には誰もが目にしたことがあるほど広く親しまれました。また、西洋近代美術の紹介においても先駆的かつ独創的な役割を担いました。人間の「自我」を肯定し、個性を尊重する姿勢で近代日本の思潮をリードし、人間が人間らしく生きられる社会の実現を志して「新しき村」を創設したことはよく知られています。
その実篤は70歳の時に調布・仙川の地に移り住み、晩年の20年間を過ごし、昭和51(1976)年4月9日に90歳で死去しました。今年、実篤没後50年にあたるのを機に、武者小路実篤記念館と調布市文化会館たづくり展示室の2会場で、気鋭の批評家であり随筆家の若松英輔氏の評価を軸に、2つの展覧会を開催します。
若松氏は、実篤は文学史ではなく精神史の中で捉えるべき存在と語ります。若松氏の目に映る実篤は、深い哲学性・宗教性を有し、真実を語ることのできる、多くの人を魅きつけ結びつける時代の牽引者であり、見逃されているこうした実篤の本質は、現代にこそ重きを持つと評します。当館を会場とした春の特別展では、椿貞雄、柳宗悦、河野通勢、有島武郎、内村鑑三ら実篤周辺の人々の作品・資料を中心に展覧会を構成し、考察し、実篤という人物を捉え直すことを試みます。