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激変する都市のはざまで──「草場地春の写真祭2011」レポート

多田麻美

2011年06月01日号

再生産される廃墟

 ダイナミックな変化のなかにある北京で開かれた写真祭だけに、その開催中も、草場地やその周辺では再開発の槌音がやまず、家屋の取り壊しや再建設がもたらした埃っぽい風景が広がっていた。そんな環境と呼応してか、展示作品のなかでも、都市の移り変わりや時代の変化を背景に盛り込んだものが存在感を放っていた。なかでもまさに「直球」だったのが、Chambers Fine Artで開かれた榮榮の個展「廃墟シリーズ:1996-1998」だ。


写真8 榮榮《1996 NO.5》[提供:三影堂撮影芸術中心]

 今回出品された写真30点余は、国外ではその一部が展示されたものの、中国国内での展示は初めて。西安での2枚を除くすべてが北京の市街地を縦横に走る横町、「胡同」の取り壊し現場で撮影されたものだ。
 20世紀末に撮影された写真を現在発表した理由について、榮榮はこう語る。「十数年前から、北京では何も変わっていない。取り壊し、再建する、の繰り返し。その風景に自らの感情や、今現在失われつつあるものを留めたいという思いを託した。その破壊は、生命への打撃でもあるから。また被写体には、あるプロセス、人文的なもの、痕跡、そして記号も託されている」。
 印象的なのは、廃墟の中のさまざまな画像だ。かつてそこで主観的に想像された景色を映し出したポスターやゴミ袋たち。それらに刻まれた記憶は、作品の時代性を強め、その内容を多層的でありながら、共有しやすいものへと昇華していた。

激変のひずみを捉える

 一方で、Pekin Fine Artsでのグループ展「re GENERATION²」では国のシンボルが庶民の生活空間を犠牲にして膨張する様子をイメージさせる柳迪(リウ・ディ)の「動物規則」が強烈なメッセージを放っていた。また「53号院」では、ティエリー・ジラールの「上海の女」シリーズを展示。激しい変化のなかの上海で暮らす女性とその住まいを三枚組の写真で表現することで、個人と環境との関係を実存主義的に捉えた作品が目を惹いた。ちなみに同ギャラリーで同時に開かれた「澳門撮影」展では、ルイ・バストスの「新しい町」シリーズも展示。中国復帰後のマカオに焦点を当て、その10年来の急速な発展の裏に潜む冷酷で孤独な世界を表現していた。


写真9 柳迪《動物規則》[提供:三影堂撮影芸術中心]


写真10 ティエリー・ジラール《上海の女》[提供:三影堂撮影芸術中心]

 伝統文化との関わりについては、Where Where Exhibition Spaceで開かれた「空にする(Making Void)」展における、中国の伝統的拳法をモチーフにした作品も興味深かった。郝楠(ハオ・ナン)の「八卦掌研究」というシリーズで、舞台は都市の再開発の波のなかで生まれた空き地。そこで骨董の机を運ぶ不安定な人間の姿を通じ、都市部における古いものと新しいものの均衡を追求した作品だ。それは環境や時代の急変によって丸裸にされ、異化された文化への照射であるようにも感じられた。同画廊では、伝統的な住居とそれを記録する媒体を対比させたインスタレーション、「織染局」も展示された。


写真11 郝楠《八卦掌研究》[提供:三影堂撮影芸術中心]


写真12 郝楠《織染局》[筆者撮影]

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