フォーカス
手と心の触感──向京の「この世界は良くなるのか?」展と「手で触れる」展
多田麻美
2011年11月01日号
平行的な関係
一方、すでにかなり前の展覧会になってしまって恐縮だが、充実した展覧会であり、やはり触感をくすぐる展覧会だったということで、ARARIO北京で行われた「手で触れる(触摸) Almost Tangible」について触れておきたい。こちらも「主体と他者との邂逅」に焦点を当てた展覧会で、そのテーマは「いかに伝統的な接触の法則を打ち破り、外部世界全体との関連のなかで、不断に増す可能性を自分のものにするか」。出品作品のなかにはアラリオ・グループのコレクションを中心に、テート美術館から運ばれたという、パレスチナ人女性作家モナ・ハトゥムの作品なども含まれていた。
その展示作品の多くは少し前に完成されたものなので本稿では省くが、ここで若手作家高磊(ガオ・レイ)の新作《NS24》が発表されたことには触れておきたい。山羊や羊の頭の標本と医学用の人体の骨格、羊毛、1930、40年代のバスタブ、そして70年代の床屋の椅子、マイク、拡声器など、その素材は特殊なものばかりで、作品自体もドラマ性を内包したものだった。
絵画、映像、インスタレーションなどを通じ、「権力が個体内部の思考や外の社会環境にもたらす力」、そして「種(しゅ)の人工化や自然景観の絶えざる異化」などの問題に取り組んできた高磊。その作品には動物などの自然物がたびたび登場してきた。だがそういった他の作品と同じく、今回の《NS24》でも動物たちの「獣性」はどこか抑制されている。動物の擬人化とそこに託されたカリカチュア性の明白な痕跡があるのに、一方で直接の比喩、対話からは一歩引いた、人と動物を等価値とする関係性も感じられるのだ。そこでは、向京のそれと近いが、より平行的と言う意味で異なる、人と自然界の関係が表わされているように感じられ、興味深かった。