フォーカス

Françoise Pétrovitch展 Musée de la Chasse et de la Nature

栗栖智美

2012年02月01日号

 パリ・マレ地区のギャラリー散歩のついでに是非立ち寄ってみたい狩猟自然博物館。ここでは2007年から自然と人間をテーマにした現代美術展が企画されている。この冬の狩猟シーズンの作家はFrançoise Pétrovitch。彼女の描く純真で残酷な少女の目に、自然はどのように映っているのだろうか。


展覧会ポスター © Hervé Plumet / Courtesy galerie RX

パリ・マレ地区の邸宅ミュゼ

 パリのマレ地区といえば、ポンピドゥー・センターからもほど近く、イヴォン・ランベールやエマニュエル・ペロタンなど現代アートギャラリーがひしめくエリアである。小さなブティックも軒を連ね、アートとモードの町として賑わいを見せる。歴史を紐解くと、フランス革命前後に貴族たちが次々とここに移り住んだこともあり、いまでも古い邸宅がそのまま残る地区でもある。ロココ装飾が残る瀟洒なスービーズ館(現国立古文書館)、往復書簡で有名な女流作家セヴィニエが住んだカルナヴァレ館(現パリ歴史博物館)などは貴族の邸宅をミュゼにした例である。

 今回ご紹介する邸宅ミュゼはMusée de la Chasse et de la Nature(狩猟自然博物館)。ここも17世紀に王の秘書まで務めたジャン=フランソワ・ドゥ・ゲネゴー・デ・ブロッスが1655年にフランソワ・マンサールにつくらせた邸宅である。マンサールによる個人の邸宅では現存する唯一の建築物だという。何人もの所有者の手に渡るうちに荒廃が進み取り壊される寸前であったが、文化相アンドレ・マルローによって歴史的建造物に認定、マルローと知己のフランソワ・ソメール、ジャクリーヌ・ソメール夫妻により狩猟自然博物館財団が創設され、財団の運営のもと1967年に開館、現在に至る。この狩猟自然博物館は、創始者ソメールが世界中から集めた狩猟や自然に関するオブジェや絵画、武器や剥製のコレクションが美しい調度品とともに展示されており、なかにはルイ13世やナポレオンが使用した猟銃、リュベンスやクラナッハ、シャルダンなどの絵画もある。

 展示室を渡り歩くと、18世紀のマルケトリーを施した重厚なコモードの上に剥製が置かれていたり、部屋を埋め尽くすガラスの陳列棚に繊細な装飾を施した猟銃が展示されていたり、シロクマやゴリラ、オオカミなどの剥製が出現したり、フランス古典主義時代の狩猟を描いた絵画が品よく暖炉の上に架けられていたりと、フランス貴族の優雅な生活や伝統的な趣味である狩猟の雰囲気を感じることができる。

 この博物館の魅力はそれだけではない。実は2007年のリニューアルオープン以来、現代美術のアーティストによる「人間と動物」をテーマとする企画展を開催しているのだ。5年目を迎えるが、すでに17名の作家による企画展が催された。フランス東部のアルデンヌに、創始者が狩猟のときに使用していたパヴィオンがあり、なかにはそこをレジデンスとして制作をしたアーティストもいる。ヴェルサイユ宮殿によるジェフ・クーンズや村上隆の展覧会を例に挙げるまでもなく、古い邸宅のなかに意欲的に現代美術を持ち込む手法は展示空間の可能性を広げ、観賞者だけでなく職員たちにも大いなる刺激を与えてくれる。

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