2019年05月15日号
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フォーカス

オルセー美術館「印象派とモード」展/ピナコテーク・ド・パリ「ゴッホと広重」展

栗栖智美

2013年01月15日号

 印象派。混雑してゆったり見られないことや、語り尽くされた感もあり、展覧会に行くのをためらってしまう人もいるかもしれない。著者もそのひとりだったが、この冬、パリで話題となっている2つの印象派の展覧会は、そんな人にもじゅうぶん楽しめるものであった。

オルセー美術館「印象派とモード」展


「印象派とモード」展ポスター


 ひとつはオルセー美術館で開催中の「印象派とモード」展。
 当館の豊富な印象派コレクションはもちろんのこと、フランスでの公開が40年ぶりとなるルノワール作《シャルパンティエ夫人と子どもたち》(メトロポリタン美術館)などの名作が国外から貸与されていると聞くだけでも、是非とも足を運びたくなる。さらに、モードの観点から印象派を読み解くというテーマを、パリ装飾美術館とパリ市モード博物館がバックアップするとなれば、どんな展示になるのだろうと興味が湧いて来るのである。
 期待に胸を膨らませて展示室に入ると、まず婦人服の新聞広告が紹介される。19世紀、印象派がパリを描いた時代は百貨店の黎明期でもあった。庶民階級の台頭を背景に、お抱えクチュリエに注文するオートクチュールから、デパートにふらりと立ち寄ればすぐに洋服が買えるプレタポルテへと移行したことは、当時の女性たちにとっては革命的だったに違いない。今も女性を虜にするパリのボン・マルシェやプランタンが誕生した日の挿絵入り広告や、おしゃれのポイントが書かれたイラストファッション雑誌はどれも史料的価値が高い。シルクや上質なコットン素材にレースやプリーツがふんだんに施され、コルセットで腰を引き締めお尻の部分を盛り上げたクリノリン様式の当時のドレスも数体展示されている。繊細な日傘、石畳を一日歩いたらすぐに擦り切れてしまいそうな華奢な靴、小さな手袋、扇子も展示され、19世紀のエレガントな女性のトータルルックが挿絵と実物の洋服とで再現される。
 展示室の奥でようやく印象派の絵画が登場する。アルベール・バートロメの《温室にて》のタブローと、画中の女性が着ている実物のドレス。緑あふれる背景に佇む画家の妻が着ている服は、その隣に展示してある水玉とストライプにプリーツを施した紫と白のサマードレスであり、日中に室内で着用するための着心地のいい素材や凝ったデザインと、画中からあふれる温かい雰囲気が見事に一致している。実物なので当たり前なのだが、バートロメの作品の親密な印象は、このドレスそのものの素材やデザインによるところが大きいといってもいい。ここで印象派の作品に描かれる衣服の重要性について考えさせられるのである。
 モードと印象派の関係を示唆した後は、マネやモネ、ルノワール、ベルト・モリゾ、ドガといったおなじみの画家の作品が、「夜会服」「室内着」「下着」「男性服」「野外服」といったテーマごとの展示室に振り分けられる。画家が光や色、平面性に注目したことによって観賞者の関心から外されがちな衣服が、実物の服飾展示のおかげでどのようなディティールの服だったのかはっきりと見えて来るのが面白い。
 19世紀、デパートの誕生によって大いに飛躍した商業。プレタポルテのおかげで洋服への興味が高まり、魅力的な女性がパリには溢れていたのかもしれない。高尚な歴史画を捨て、身近な風景や人物を親密な視線で描いた印象派の画家たちが、この時代に輝きを増したエレガントな女性を描かないわけがなかった。印象派の画家が描いたのは女性だけではないが、着用する時間や場所によってデザインや素材も異なる当時の衣服とタブローを見比べることにより、印象派の画家が描きたかった19世紀の都市の風景が浮かび上がって来るような興味深い展覧会であった。


Modèle des Magasins du Grand Marché Parisien, L’Univers illustré, 1876年4月8日, 個人蔵



左:Dans la serre ou Madame Bartholomé, 1881年頃 Albert Bartholomé, Paris musée d’Orsay
右:Robe d’été, 1880年, Paris musée d’Orsay


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