フォーカス
オルセー美術館「印象派とモード」展/ピナコテーク・ド・パリ「ゴッホと広重」展
栗栖智美
2013年01月15日号
ピナコテーク・ド・パリ「ゴッホと広重」展
もうひとつの展覧会はピナコテーク・ド・パリで開催中の「ゴッホと広重」展である。2007年にオープン、2011年に2号館が開館したパリのマドレーヌに位置するこの美術館は、企画展の面白さが好評だ。
今回は1号館で歌川広重による「旅の芸術」をテーマにした展示、2号館でゴッホの「日本の夢」と称した展示の2本立て。よくあるジャポニスムの展示かと思いきや、北斎に王座を奪われ、なんとフランスではまだ一度も単独で紹介されたことのない広重を初めて展示。保存状態の極めてよい東海道五十三次、木曽街道六十九次の四十六景、名所江戸百景のほぼ全作品をライデン国立民俗学博物館が貸与してくれたことで実現したという見逃せない展示なのである。木版画や旅に因んだ江戸時代の道具などがガラス張りの展示室に並べられていたが、多くの観客が詰めかけ、その一人ひとりが丹念に作品に見入って語りあっているのが印象的だった。有名な版画もあったが大半が未見の作品で、描かれた風景の大胆な構図や斬新な色彩と、美しい四季や活気に満ちた江戸時代の風俗に感嘆の連続であった。
2号館では、そんな広重に魅せられたゴッホの作品が紹介されている。彼が浮世絵の模写をはじめとして多大な影響を受けていることは語り尽くされているものの、それが広重のこの作品のこの部分であると具体的かつ大胆に影響関係を提示した初めての展示であるという。ゴッホの作品の横には掛け軸を模した大きなパネルが掲げられ、弟テオとの書簡のなかから彼の日本熱を示す文章を引用、そして例えば作品の木の幹の描き方が広重の版画のこの部分を模したもの、といった具合に構図やモチーフ、表現方法を細かく比較する。この展覧会では1887年以降のゴッホの風景画の大半が、常に広重の絵画から出発していることを示す約40点の作品が展示されている。異論はあるだろうが、展示された作品のほとんどが、広重の作品を明らかに借用していることに納得せざるをえなかった。広重の描く美しい江戸時代の風景がゴッホの心を揺さぶり、限りなく日本に近いと信じる南仏で日本を夢見ながら情感豊かな作品を生み出したと言ってもいいかもしれない。
ピナコテーク・ド・パリの面白さは常設展示でも発揮されているのでご紹介したい。
アフリカ彫刻、リキテンシュタイン、フランス・ハルス、ルオー……時代も様式もモチーフも異なる作品が隣り合わせに平然と並ぶ展示室。館長によると博物館の原型とも言われている、15世紀ヨーロッパの貴族の間で流行った「cabinet de curiosités(驚異の部屋)」に着想を得ているとのこと。と同時にさまざまものの影響を受けて創造するアーティストの頭のなかを展示で表現したという。時代や作家別に分類された現代の展示方式に慣れていると、最初は頭が混乱する。が、隣り合った作品に共通点を見出そうとしたり、展示の意図を探ろうと思考をめぐらせたりと刺激的な展示でもあった。常設展は空いていたが、この美術館の展示のユニークさを知るには欠かせない展示空間である。
展覧会情報
オルセー美術館の『印象派とモード』展は1月20日まで開催。続いてメトロポリタン美術館で2月19日から5月27日まで、シカゴ美術館で6月30日から9月22日まで巡回。
ピナコテーク・ド・パリの『ゴッホと広重』展は3月17日まで休みなく毎日開催。
オルセー美術館
住所:1 rue de la Légion d'Honneur 75007 Paris
Tel. 01 40 49 48 14
開館時間:9:30〜18:00、(木:〜21:45)
定休日:月
http://www.musee-orsay.fr/
ピナコテーク・ド・パリ
住所:1号館 28 place de la Madeleine 75008 Paris / 2号館 8 rue Vignon 75009 Paris
Tel. 01 42 68 02 01
開館時間:10:30-18:30(水・金:〜21:00)
無休
http://www.pinacotheque.com/