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フォーカス

明かされるイリヤ&エミリア・カバコフのアート&ライフ ペイス画廊での個展とドキュメンタリーフィルム初公開

梁瀬薫

2014年01月15日号

 “独裁社会共和国”とも言われた過去の帝国から生まれた芸術。いまロシアへ愛を込めてアートと人生を紡ぐ。


Documentary Film, Ilya & Emilia Kabakov: Enter Here
by Amei Wallach
Photo by Jacques De Melo 2013

Ilya and Emilia Kabakov: Enter Here, 2013
Director and Producer: Amei Wallach
Edited by Ken Kobland, Co-Produced by Kipjaz Savoie

 イリヤ・カバコフ──「モスクワ・コンセプチュアリズムの父」とも呼ばれているロシア前衛美術の先駆者。
 カバコフのアートは大規模なインスタレーションをはじめ、イラスト、コラージュ、ゴミや虫をテーマにした作品など多様な技法により、ソ連の日常生活がシアトリカルにたぐられる。歴史背景や政治社会への直接的な批判よりも、あらゆる情勢下で生きる個人の小さな歴史や記憶を留めるような心理的なストーリーが展開する。一見ではそう簡単に理解できない比喩的な作品はカフカの未完成長編作品のようでマジカルだ。

 カバコフは、1933年旧ソ連ドニエプロペトロフスク市(ウクライナ)生まれ。貧しいユダヤ人家庭に育つが幼少時から絵が得意で学校でも優秀な生徒だった。1943年モスクワの名門校レニングラード美術学校に入学。同年母親とモスクワに移る。家族は戦火を逃れ多くの難民が暮らすサマルカンドに疎開する。寮生活と厳格な教育制度に耐えながら制作活動を続ける一方、国家の認定芸術家として絵本の挿絵作家、イラストレーターとして働く。彼の才能はロシアの知識階級者のなかで認められ頭角を現わす。1968年にソビエトでエリック・ブラトフと初個展を開催。1970年代には「ソビエト美術」がヨーロッパやニューヨークで紹介される。1985年に海外初の展覧会がベルリンで開催され、次々にヨーロッパ各地で展覧会が開かれる。1987年に奨学金でオーストリアに3カ月留学。留学中に母親死去。ベルリン滞在を経て、1992年にニュ─ヨークのロング・アイランドにスタジオを構え同郷の妻エミリアと共同制作を続けている。

 「(アメリカに来て)私たちは自分たちの世界を、別の世界に持ち込んだのです。それこそが初めて成功した“完全なるインスタレーション”となりました」─エミリア

 1993年にはベネチアビエンナーレで《レッドワゴン》が注目を集め、以来、ニューヨーク近代美術館やドクメンタなど世界の主要美術館で数々の展覧会が開催されてきた。2004年にはエルミタージュ美術館で、生存している作家では初めての個展が開催され話題を呼んだ。日本では1999年に水戸芸術館で大規模な個展『シャルル・ローゼンタールの人生と創造』が開催されている。また2008年には高松宮殿下記念世界文化賞を受賞。2014年には、パリのグランパレでのインスタレーションが企画されており、最大規模の記念碑的な作品となる予定だ。


「カバコフは生活のためにソビエト美術組合グラフィック部門の会員となり、絵本の挿絵を描き続けた。自分の作品を見せることは許されていなかった」(フィルムより)
イメージは、A Long Day of Giants, text by Peter Hacks, Moscow 1970(中央)と、The Air We Breathe, text by Evgeny Petrovich Mar, Moscow, 1972(背景)


絵本Far and Near, text by Barbara Levandovskaya, Moscow, 1982より抜粋


The Life of Flies(ハエの人生)より。1992年作5つの部屋によるインスタレーション


フィルムより。インスタレーション作品。2000年アーモリーショーに出品されたHow to Make a Paradiseに並ぶ人々

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