フォーカス
明かされるイリヤ&エミリア・カバコフのアート&ライフ ペイス画廊での個展とドキュメンタリーフィルム初公開
梁瀬薫
2014年01月15日号
イリヤ&エミリア・カバコフ展
Ilya & Emilia Kabakov
2013年11月2日〜2014年1月25日
Pace Gallery
http://www.pacegallery.com/
イリヤ&エミリア・カバコフのペイス画廊主催の初個展では、2010年から現在までの最新絵画作品シリーズ《コラージュの現われ》《縦の絵画》《闇と光》から8点と、インスタレーション作品《小さな白い人間を捕える》(2003)が披露された。新作の絵画作品群の構想は1970年代から続いている「偉大なアーク」なのだと言う。作品それぞれがアクト(行為)で、始まりは白いアークの絵から。次は「現実の小さな要素」がさらに現実味を帯び、次の行為では「現実が絵の表面をすべて覆う」。4段階目の行為では展示作品の《闇と光》(2013)に描写されているような「暗闇」が画面の黒の部分から滲み出てくる。そして最終アクトでは「暗闇が絵の表面をすべて覆う」。
それぞれの作品は関連しており、現実と別の現実の比喩から異なる世界へと促されていくのだ。《コラージュの現われ》では「現実」と「暗黒」との異なる関係をつくり出し、《縦の絵》ではその画面のコンポジションによって当然ながら誇張された緊張感のなかに、無作為の人物や風景のシーンが目一杯写実される。ロシアの古い雑誌の切り抜きや絵はがき、あるいはポスターを想像させるようなノスタルジックな雰囲気のある画面には、歴史感や日常感を感じさせながら、時と場所はあくまで特定されず、いずれも鑑賞者は自身の個人的な現実をシーンに復原することになる。誰の現実にも存在しうる暗闇の示唆。カバコフの言う「現実」は迷路への入口かもしれない。そして一度足を踏み入れると戻れなくなるかもしれない。
カバコフの幼少時の記憶、母親から語られた戦時下で死んだ(殺害された)親族のさまざまなストーリーは、アートとサバイバル、あるいは、アートと恐怖との接点となった。「恐怖こそがアートをつくる理由だ。そこには自由への道がある」(Amei Wallach, Ilya Kabakov, The Man Who Never Threw Anything Away, Abrams ,1996)