フォーカス
東京国立博物館 金子啓明氏に聞く:「国宝 阿修羅展」──古代彫刻から見る天平文化
倉方俊輔
2009年03月15日号
360度で見せる阿修羅、三つの顔
──展覧会の中心である阿修羅は、会場にどう展示されるのですか?
金子──大きな「阿修羅の部屋」をつくります。通常、阿修羅は興福寺の国宝館にあって、壁ケースに入っていますから、側面や背面が良く見えません。
今回は阿修羅を360度ご覧いただきたいと考え、阿修羅一点だけをケースなしで展示するスペースを準備しました。スロープをつくってまず少し高い位置から
見てもらい、降りていって、お像の周りを一周します。
なぜそうするか。阿修羅は3つの顔を持っています。しかも、その表現の中心は表情です。その表情を本当によく見てもらうためにはそれなりのスペースと、
ディスプレイが重要です。ディスプレイのなかでも、特に照明ですね。阿修羅は正面の顔だけでなく、側面の顔も非常にいい表情を持っています。照明によって
表情がまた変わりますので、魅力的な表情をライティングでどう見せるかが大事になってきます。また、3つの顔の違いや意味は一周まわらないと感じ取れな
い。そのための時間設計、空間設計を念頭に置いて、阿修羅の部屋を考えました。
──2008年に「国宝 薬師寺展」が東京国立博物館で開かれました。これも日本美術の通念を覆すような斬新な空間設計で、多数の来場者を集めました。今回の「国宝 阿修羅展」とは何が異なりますか?
金 子──「国宝 薬師寺展」の時に重視したのは、お像の持つ肉体の理想的な表現ということです。それに対して、阿修羅の場合はもっと繊細で内面的な心のあり方、顔の表情と いうものが中心になります。そういう表情の表現のしかたが天平彫刻の大きな特色です。ですから、その表情の魅力ある特色を十分に見てもらうということが、 今回の展覧会の重要なコンセプトになりました。阿修羅以外の八部衆・十大弟子も姿かたちの違い、あるいは共通点をよく見ていただきたいということで、ケー スなしで見られる空間構成にしています。阿修羅と八部衆、十大弟子を通じて、天平時代の文化の深さ、仏教理解の深さを感じ取っていただきたいと思います。