2021年09月15日号
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東京国立博物館 金子啓明氏に聞く:「国宝 阿修羅展」──古代彫刻から見る天平文化

倉方俊輔

2009年03月15日号

「彫刻空間」の設計へ

──その市民と作品を架け渡すものとして、さきほど言われたような装置がデザインされる。立ち入った質問ですが、金子さんはどういう道筋で、こうした考えに達したのでしょうか?

金子──博物館に長年いて彫刻を担当するなかで、彫刻の持っている時間や空間の重要性に気づきました。
 彫刻は立体物ですから、同じ大きさのものであっても、いい作品は占める空間がずっと広い。それだけ空間を占有することができる、支配することができま す。それを私は「彫刻空間」と呼んでいます。それは彫刻をぎりぎりのケースの中に入れたのでは駄目です。本来持っている「彫刻空間」を展示ケースが制限し てしまう。もちろん、保存上の問題等は十分考えなければいけませんけれども、いい像であればあるほど充実した彫刻空間を求めていますので、物理的な枠はな るべくつくりたくありません。
 それから、いい作品は時間を求めています。例えば阿修羅像は正面の顔には複雑な心理描写があります。それだけでなく両脇面も揺れる心のあり方を表現して います。そういう3つの顔を持っていますね。それはとても優れたものですから、作品の前で人にいろいろなことを考えさせます。そうするとそのための時間が 必要です。つまり、彫刻の持っている空間と、お客さんと対話する空間の両方が必要だから、とても大きな空間が必要になってくるわけです。そうした彫刻の持 つ固有の空間や時間を活かすためには、設計が必要だというところから出発しています。
 博物館・美術館のあり方は多様です。いろいろあって良いのですが、「対話」を重視する博物館も必要なのではないでしょうか。そのためには、人との交流の ようなものをつくり出す哲学なり思想なりが必要になってくる。そういう21世紀型の思想の可能性も、博物館・美術館は担えるのではないか。そこに相対化さ れた思考ではなくて、いま申し上げたような「美の神殿」の再興という要素も入ってくるだろうと考えています。

──今日は日本美術から、デザイン、アート一般に接続する話をいただきました。そして、その中心には動かしがたいモノがある。「国宝 阿修羅展」によって、今後の日本美術の見方もまた変わってくるでしょうね。

金子──興福寺の阿修羅や八部衆、十大弟子、これらは掛け値なしにすごい作品です。日本の古代彫刻は本当に世界レベルです。非常に内面的で、繊細 で、深い。日本独特のものであるし、仏教の理解がすごくその時進んだことが分かります。すばらしい作品の価値を率直に認識しそれをぜひ実感していただきた いと思います。

2009年2月12日 東京国立博物館にて

興福寺創建1300年記念 国宝 阿修羅展

会場:東京国立博物館 平成館(上野公園)
会期:2009年3月31日(火)〜6月7日(日)
URL:www.asahi.com/ashura/

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