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兵庫  江上ゆか
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exhibition廣岡千恵展

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「アカナガテ」
「アカナガテ」

 なんだか先月号の山本さんによる学芸員レポートの続編のようになってしまうのだが、今月もやはり阪神地域のユニークなアート・スペースで開催された展覧会2つを紹介したい。
 まずひとつ目はストリート・ギャラリーの廣岡千恵展。芦屋からJRで灘・三ノ宮方面へ向かう途中、住吉駅で下車、山手に延びる駅前通り沿いの小さな画廊がストリート・ギャラリー、なのだが、その狭さといったら半端なものではなく、奥行きは1mそこそこ、むしろショウウィンドウといったほうがイメージに近いかもしれない。実際ここを訪れるお客さんは、不動産屋のオススメ物件や出来たて弁当の並びに作品を見つけることになる。
 廣岡千恵は1975年大阪生まれの若手作家。ビニールを裁断し縫う、家内制手工業(?)によって製作される廣岡の作品は、しかし当然、何かの用を足すようなものではない。今回の「アカナガテ」に至っては、役に立たないどころか、この窮屈なスペースにはどうにもおさまりきらない厄介者だったらしく、その名のとおりやけに長い真っ赤な肢体をきゅうぅと二つ折りに詰め込まれ、なんとも情けない姿でぶら下がっていた。その不必要に大きく派手派手しい物体は、しかしそのどうしようもない情けなさゆえの訴求力で、ストリートと呼ぶには少々まったりとした日常的な通りの眺めに、十二分に存在感を放っていた。とっぷり日も暮れた仕事がえり、駅からとぼとぼ坂道をのぼる途中、こんなもんがいきなり目に入ったら、思わず全身の力が抜けて、えいと殴りたくなるか、いとおしく抱きしめたくなっても仕方なく、そしてそのどちらでもありえてしまうところが彼女の作品のもつまさにその魅力なのだろう。何かのようであって何ものでもない。かわいいようでエッチで不気味。作品の面白さが、空間との相乗効果で際だって感じられた展示だった。
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会期:2000年3月6日〜4月9日
会場:STREET GALLERY(たけうち矯正歯科)
   神戸市東灘区住吉本町1-5-8
問い合わせ:Tel. 078-842-4114

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exhibition黄鋭 架空の旅III

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キリン尼崎ビル
キリン尼崎ビル

 今度は同じJRで芦屋から大阪方面に向かい、尼崎駅へ。関西コンテンポラリーアートラボラトリー(略称K・C・A・L)では6月2日まで黄鋭(ファン・ルイ)展が開催されている。
 活動開始から約1年ほどたつK・C・A・Lとは、以下DMより引用すると「キリン尼崎ビル内のスペースを実験ギャラリー空間として活動する、非営利のコンテンポラリー・アート支援組織」。
 黄鋭は1952年北京生まれ、今日では中国現代美術の出発点と位置づけられる「星星展」に参加したひとりである。1984年に来日、現在は大阪・西天満にスタジオを持ち活動を続けている。

会場風景

会場風景
会場風景

 展覧会の初日にパフォーマンス、以後会期中はインスタレーションを展示。題名が示すとおり、時間と空間の往来がテーマになっているのだが、その媒介となるのがにおい。部屋の中央、矩形に敷かれたタイルの上にバスタブが置かれ、中には「キリン淡麗<生>」の空き缶が山積みにされている。添えられた柄杓から、パフォーマンスのときにはどうやらその中味が振る舞われたらしいことが伺われる。凄い量……!壁にはつややかな肌のモノクロ写真が3点、それぞれに今目の前にある同じバスタブが、かつてたたえていた姿とにおい−女性と香水、魚と薔薇、犬と骨−が焼きつけられている。南窓から差しこむ日差しの中、モデルルームのように無機質な清潔感さえ漂わせるバスタブと、写真の中に封じ込められた景色は、妙に醒めた白昼夢のような手触りでシンクロする。そして何より部屋に足を踏み入れた瞬間に襲ってくる、アルコール臭。そのにおいに文字どおりくらくら酔いながら、吸い込む息とともに体の内側にとりこまれるにおい、視覚とは違い何の構えも許さないそのあまりに直截な感覚の揺さぶりかたに、あらためて気づかされた。
 実は当初の計画では、浴槽には空き缶ではなくビールそのものを残す予定だったという。ほかにもインスタレーション及び初日のパフォーマンスにあたり、作家とK・C・A・L、キリンビールの三者による協議を経て幾つかの変更点があったそうで、その経緯はパネルに箇条書きにされていた。個々の結果についてはいろいろな意見があろうが、私には経緯がきちんと示されていること自体まず重要なことと思えた。その行間からは、作家は勿論のこと、K・C・A・Lと企業のそれぞれが、問題を前向きかつ誠実に話し合ったことが感じられ、ともすればそういうあたりまえのことさえ難しいわが身について深く考えさせられたのである。
 はじめて会場を訪れる方は、会社の建物内ということで戸惑われるかもしれないが、駅から北に見えるキリンビール社屋の2階に間違いなくあるので、臆せずお入りください。

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会期:2000年4月15日〜6月2日 
会場:関西コンテンポラリーアートラボラトリー
   尼崎市潮江1-2-1 キリン尼崎ビル2F K・C・A・L
開廊時間:10:00-17:00 日・祝日休廊
K・C・A・L事務局:大阪市東淀川区南江口3-4-48

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report学芸員レポート [兵庫県立近代美術館]

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 最近、関西はオルタナティヴなアート活動が元気ですね、というようなことを言われたことがあった。そもそもオルタナティヴとは何ぞや?という疑問もあったりするが、作り手と受け手、美術をめぐる人々の新たな関係を模索するような場所や、そうしたことに関心をもち熱心に取り組んでいる人たちが、関西に限らず各地で増えていることは、artscapeでも月々報じられているとおりであり、ここの読者の皆さんには説明する迄もないだろう。とにかく、何やかんやと面白そうなことが日々「おこっている」ことは、間違いない。
 3月初旬、3日間に渡り神戸アートビレッジセンターで開催されたトヨタ・アートマネジメント講座「芸術の基礎体力」にも、なんと募集定員90名の3倍を越える応募者が殺到したそうである。残念ながら私は当日参加できず、神戸・朝日両新聞に掲載されたレポートを興味深く読んだのだが、両紙揃ってとりあげていた藤本由起夫氏の発言が、そんな状況の別の側面を非常に鋭く言い当てていて印象に残った。美術館や画廊に行かないのに、スタッフとして手伝いたい人が増えている、まずお客さんになるのが最高の文化支援でなはないか……。
 そうそう!と新聞に向かって深く首肯きながら、なんだか世の中いろんなところでどんどん、あたりまえのことがあたりまえのことでなくなっているのかなぁ、などと思ったりもした。いや勿論、美術館のスタッフである私がこんな他人事のようなとらえ方ではけしからんわけで、非・オルタナティヴな(?)見る/見せる装置として美術館こそがまず解決し、実現していかねばならぬあたりまえのことが、山ほどあるのだけれど……。

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