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兵庫  山本淳夫
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exhibition内科画廊−'60年代の前衛

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内科画廊ちらし
内科画廊ちらし

会場風景
会場風景

 かつて国鉄新橋駅のすぐ近くにあった「内科画廊」が、60年代の東京における前衛美術の動向を語るうえで避けて通れない存在であることは、周知の事実である。その資料展がなぜ京都で、しかも美術系の大学の展示スペースで行われるのか不思議に思った方は少なくないのではないか。実は同画廊の開設者、宮田国男氏のご令嬢、宮田有香氏が京都造形芸術大学芸術学部に在籍中で、彼女自身の研究発表も兼ねた企画らしく、会場で配布されていた冊子にも概説を寄稿されている。多くは知らないが、同画廊の軌跡を概観できる資料としては、恐らくこれは唯一の貴重なものではないだろうか。
 「内科画廊」とは風変わりなネーミングである。宮田氏が医大生であった当時、父の急逝により使い道のなくなった診療所のスペースを、幼友達の中西夏之のすすめで画廊に転用した、という事実は初めて知った。それにしても「内科」ということばの持つ響きは象徴的で、讀賣アンデパンダンなどの記録写真などから感じられる、一種の内臓感覚に訴えるようなイメージとよく共鳴しあっている。
 あまり広くはない、当時の画廊空間を再現したコーナーを抜けると、20点弱の作品と約100点の資料が展示されている。作品は小品が中心だが、例えば関根美夫のソロバンをモチーフにした油彩ひとつとってみても、こんなに手業を感じさせるプリミティブなものは他でみたことがない。いかにも個人コレクションらしい嗜好性と臨場感である。案内状などの資料についても、全体にイデオロギッシュな色彩が濃厚で、当時の時空間を反映しており興味深い。会場には東京から足を運ばれた方もたくさんおられたようだ。当時を知る人には、格別の思い入れがあるに違いない。
 会場をみながら、1998年に千葉市美術館と共同開催した「草月とその時代」という展覧会のことを思い出した。当方は草月アートセンターのセクションを担当したのだが、正直いって大苦戦で、とにかく大量の資料をこなす作業に終わってしまった感がある。当然ながら、たまに新幹線で通うだけでは把握しきれない空気感や機微のようなものがあって、やはり地元の方にきっちり総括していただかないとダメだと痛感したし、そういう作業の余地がまだまだあるようにも思った。その折に取材したある人物は、60年代精力的に現場を目撃し、案内状から記録写真に至るまで貴重な資料を大量に保管しておられたのだが、訪ねてきた学芸員は当方が初めてだということだった。戦後美術の埋もれた資料を整理し、次代に継承する作業は美術館よりもむしろ熱心な個人の手で行われている印象が、どうも強いような気がする。もちろん当方が無知なだけなのかもしれないが、実際のところは、果してどうなのだろうか。
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出品アーティスト:中村宏、三木富雄、関根美夫、郭仁徳、中西夏之、吉仲太造、菊畑茂久馬、岡田博、
         篠原有司男、木下新、谷川晃一、タイガー立石(ほか資料、写真類)
会場:GALLERY RAKU(京都造形芸術大学/京都芸術短期大学 天心館1F)
   〒606-8271京都市左京区北白川瓜生山2-116
会期:2000年3月7日(火)−3月19日(日)10:30〜18:30・会期中無休
問い合わせ先:Tel.075-791-9122 Fax.075-791-9127 京都造形芸術大学 京都芸術短期大学 芸術館

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川田あひるはんぺんの詩墨書き
exhibition“もものはな おじいしゃんのはな「びるぢんぐ」”

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6TOWN飲食街入口

6TOWN飲食街入口

会場全景
会場全景

作品
 近代化以降、神戸はハイカラなブランド・イメージを売りにしてきた。次々と新たな商業ゾーンが開拓され、狭いエリア内で経済の中心地が激しく推移してきたのである。経済的なパワー・バランスという意味では、元町商店街にかつての繁栄はすでにみる影もない。特に外れにある西元町は、近年新たな商業ゾーンとして華々しくオープンしたハーバー・ランドに隣接していながら、ひとの流れから完全に外れてしまっている。
 時折、アートは観葉植物よりも粘菌類に近い、と思う。日当たりの良くない湿った場所にこそ、それが生息しやすい条件がしばしば整ってしまうようだ。元町6丁目にある6TOWN飲食街は、13の店が軒を連ねるレトロで小さな地下街だが、いまでは2軒が営業するのみという寂れた状況である。神戸在住の立体作家であり、リ・フォープ(RI・WFOAP=六甲アイランド・ウォーターフロント・オープン・エア・プレイ)の主催者である宮崎みよしは、自らの事務所前のこの空間に眼をつけ、展示空間として蘇生させた。
最近の地下街は、全店舗が判を押したように統一したフォーマットで、閉店後のシャッターが並ぶ様にはミニマルな冷たさがある。6TOWNのおもしろいところは、木製の引き戸があったり、三角屋根を模した構造体がついていたり、ほとんどが閉店した今もファサードそれぞれに個性的な表情があることだ。そこに川田あひるの詩が張り紙のように展示されている。支持体の紙は所々切り裂かれ、裏打ちされた色紙のピンクや空色が顔をのぞかせており、ビジュアル的なリズムとことばの響きが一体となっている。空間から触発され、共振するかのようなライヴ感覚がある。
 この空間に身を置くことで、私は震災後の街の様子を出し抜けに思い出した。そこには、手書きの張り紙が溢れかえっていたのである。人の消息から仮設店舗、危険個所を示す紙に至るまで、手書き文字のオン・パレードだった。平常時にはきれいにデザインされ、レタリングされた文字が最大の効率で人や金の流れを生み出すわけだが、震災時にはそれと全く異なる価値が優先され、手書き文字が何ともいえない訴求力で人の営みのリアリティを浮き上がらせていた。
 私には詩固有の問題は多くはわからないし、この詩人がどういうバック・グラウンドをもっているのかも詳しくは知らない。ただ、こうした生っぽい感触が、美術をみることの醍醐味のひとつであることは間違いない、と思う。
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アーティスト:川田あひる
会場:6TOWN ARTS'
会期:2000年3月18日(土)〜3月31日(金)12:00〜19:00
問い合わせ先:リ・フォープ Tel.078-366-0536(宮崎みよし)神戸市中央区元町6-7-5 松尾総合ビルB1F

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report学芸員レポート[芦屋市立美術博物館]

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 阪神間を東西に貫く国道2号線の、西宮市内の夙川近辺から前回は美術とあまり関係のないラーメンのことを書いてしまった。でも言い訳するなら、学芸員って机に向かって唸ってるだけじゃ仕事にならない、と自戒も込めて思うのだ。というわけで、季節も良くなってきたことだし、今月もお出かけ系の話題を。お花見がてら、神戸方面のオルタナティヴなスポット(?)をめぐる旅である。
 阪急王子公園駅で下車すると、公園の満開の桜が眼に飛び込んでくるだろう。付近にはもうひとりのアートスケープの関西リポーター、江上さんが勤める兵庫県立近代美術館、山手には「夢想館」とみどころが多いが、なんといっても極めつけは阪急高架下の「ギャラリー2001」である。関西きってのアングラなギャラリーで、いくら夜遅くいっても開いてるし、ここの壁面ぐらい直接描かれては塗り直された壁も珍しいだろう。現在は画廊主の清水さんが体調を崩されて休廊中なのが残念だ。一日も早いご快復を祈る次第。
 阪急で三宮まで移動、北野の異人館街にあるROSE GARDENでは、若手作家の個展が順次開催されている。山本通をさらに東に行ったところにあるのがCAP HOUSE。最近の関西ではここの活動は際立っており、広報もしっかりしているので、改めてくどくど紹介するまでもないだろう。そういえば4月初旬にはお花見イヴェントもあるようだ。
 トア・ロードをぶらぶら元町商店街まで降りてくると(ちょっと遠いのでタクシーがいいかも)、老舗元町画廊、海文堂ギャラリーがある。後者は書店の一隅が展示スペースになっていて、独自の価値観を貫いている。南京町の中華で腹ごしらえして(本当のオススメ中華店はむしろ他のエリアにあるのだが、またしても脱線しそうなのでやめる)商店街を西元町まで突っ切ると、今月紹介した6TOWN ARTS'に行き着く。通りを挟んで向いのパチンコ屋さんの角を曲がると、こちらも老舗トアロード画廊への入口がある。震災後にトアロードからこのビルに引っ越されたのだが、ここの空間は一見の価値あり。以前江上さんが児玉靖枝さんの個展を紹介されていたが、何と古いビルのらせん階段が展示空間になっているのだ。同じビルに「ガッツや神戸」のTシャツ(某TVドラマでキムタクが着て評判になった)でおなじみのイラストレーター、“わっくん”こと涌島克巳さんの仕事場もある。
 阪神電車で新開地まで移動、神戸アートヴィレッジセンターにたどり着くころには日も傾いて、一杯やりたくなるところ。夜の脱線に関しては、また別の機会のお楽しみ! ということにさせていただこう。

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