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Recommendation
兵庫 山本淳夫
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exhibition岡本光博展

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NS#158「F.F.F.」
NS#158「F.F.F.」
アクリル、キャンバス、2体の人形
1,240×960mm 2001

NS#155「OM 3」
NS#155「OM 3」
アクリル、キャンバス
1,240×960mm 2001

NS#156「Zen Garden」
NS#156「Zen Garden」
ミニカー「ゼン」15台、顔料
2,368×929mm 2001

 岡本光博の一貫したテーマは文化的差異だといえるだろう。状況のただ中では気づかないことが、その枠外に身を置くことでみえてきたりする。そんな視点から、日本社会をコミカルかつシニカルに揶揄した作品が続いていたが、今回のターゲットは現代のインド社会。ニューデリーでのアーティスト・イン・レジデンスにおいて制作され、本年3月に現地の個展で発表された一連の作品に、帰国後の2点を加えて会場は構成されている。ブルック・ボンドのタージ・マハル・ティーバックのラベルをあしらったペインティングに土産物とおぼしきダンス人形がコンバインされ、けたたましいインド歌謡が流れていたり、あるいは聖なる動物として神格化された牛がミート・チャートに置き換えられ、某有名ハンバーガーチェーンのキャラクターが寄り添っていたり。中でも目立つ「ZEN GARDEN」と題されたインスタレーションは、インドの女性が額に塗る色粉とミニカーによって竜安寺の石庭が模されている。ミニカーのモデルは現地で最もポピュラーな日本製軽自動車の輸出仕様なのだが、商品名はなんと「ZEN」。対象がインドというだけで、彼の基本的なスタンスや方法論はこれまでとなんら変わらない。
 というわけで、私の岡本光博に対するアンビバレントな印象も変わらないのである。たぶん、彼の作品の弱点をあげつらい、列挙するのは比較的簡単なのだ。コンセプトが明解なのはよいのだが、時に説明的になりすぎて作品の自立性がやや弱く感じられる。しばしば絵画という形で問題意識を提示するのだが、やはり図式的な要素が前面に出すぎる嫌いもある。結果的に、悪い意味での工芸性というか、本来彼の批判の対象たるべき方向に自ら陥るという、皮肉な状況にみえる場合があるのだ。一方で、あまりにも極端に暴走しそうな気配も孕んでいて、かつての血液によるドローイングもかなりキツイものだったし、帰国後の新作のうち、インド西部の大地震の写真に破壊の神シヴァの人形をコンバインしたものなど、阪神大震災を経験した身としては素直に鑑賞しづらいものがある。どうも、彼はある種のバランス感覚を欠いているようだ。それが端的に表れるのが「音」の扱い方である。堪え難いほどの音量で執拗なループ音を流すなど、一瞬立ち寄るだけの観客にも相当つらいのに、ギャラリストはさぞたいへんだろうと思うのだが、そんなこと、アートのためには屁とも思っていない風情なのである。
 極論するが、私は彼のコンセプト=理屈の部分にはほとんど興味がない。だとしたら、とるに足りない作家なのかというと、決してそうではなくて、正直、気になる存在なのだ。ちょうど咽に刺さった小骨のように、何かしら毒気を含んだ異物感が拭えない、という感覚である。それは、前記したバランス感覚の欠如と大いに関係があって、いいあてるのが難しいのだが、彼のなかの非常に頑固な芯のようなものが、そつの無いスタイリッシュな表現に結晶化する事を拒んでいるように見受けられる。美しくおしゃれにまとまった、限りなく退屈な作品の氾濫の中では、岡本光博の武骨さは逆に可能性に満ちた光を放ってみえる。どのみち、人の意見に左右されるようなタマではない。いずれ、アッと息を飲むようなマジックを現出してくれることを期待したい。
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会場:ギャラリーココ  京都市東山区三条通り神宮道東入ル ホリホックビル2F
会期:2001年6月12日(火)〜6月24日(日)
問い合わせ:Tel.Fax. 075-752-9081 e-mail: g_coco@mbox.kyoto-inet.or.jp
作家URL:http://www.d2.dion.ne.jp/~oka69/index.html

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exhibition第54回 芦屋市展

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清水公明「ホワイト・シャドウ・1 」
清水公明「ホワイト・シャドウ・1 」2001


ヨシダ・ミノル パフォーマンス「地球家族」movie



 さて、これまで自前の展覧会は近況覧で軽く触れる程度にし、極力露出度を控えめにしてきた。しかし今回は最後っ屁ということで、大々的に自社製品を宣伝してしまおう。
 例年当館では、6月に芦屋市展、12月に童美展という公募展を、いずれも芦屋市美術協会と共催している。両者とも半世紀以上前に吉原治良が代表を務める同協会によって創設された歴史ある展覧会で、現在ももと「具体」のメンバーが審査員として深く関わっている。
 1996年より童美展、翌年より芦屋市展が会場を芦屋市立美術博物館に移した。以来、我々は仕事として両者に関わっているわけだが、当初、それぞれに対する学芸スタッフの反応にはかなりの温度差があった。以前にも触れたが、童美展の圧倒的な迫力に比して、市展はやや形骸化した感が否めず、既に歴史的使命を終えた存在として、やや冷ややかにみていたのである。
 ところが、徐々に面白い傾向が生じてきた。会場が美術博物館となって以降、館内だけでなく、屋外も展示スペースとして解放し、後者に限り大きさは無制限となった。当初は堀尾貞治の独壇場だったのが、それが呼び水となって年々屋外へと進出する作家が増加し、次第に活況を呈してきたのである。今回の美術協会賞(最高賞)は清水公明。関西屈指のオルタナティブ・スペース「ギャラリー2001」のオーナーでもある。作品は画廊の壁面をそのまま引っぺがして搬入し、現場でグラインダーをかけたというもの。まぁ、普通の市展なら受賞はおろか、入選もまずあり得ないだろう。最終日にはヨシダ・ミノルが一家でパフォーマンスを行った。パフォーマーとしてはやはり実力者で、存在感が半端ではない。天候にも恵まれ、周囲の作品群ともよく響きあって、お祭りみたいで楽しいなぁと、しばし仕事を忘れて眺めていた。
 世の中には「私は公募展には出しません」と明言する作家もいるわけで、それはそれでとても良く理解できる。確かに、つまらない公募展が大半だとは思う。多くの場合、それらは美術作品をある種の価値体系のもとに序列づける、権威的な発想が背後にあって、それが臭っちゃうのである。芦屋市展の場合も、特に屋内の平面作品群はそうした危険性と無縁ではない。ただ屋外に関しては、まず「場」を提供し、あとは自由に遊んでもらう、という回路がうまく作動しているのだ。もちろん審査は行われるが、審査員は完成度とか、形式的なことを全く問題にしない。一見ゴミみたいな(失礼)応募作品の山の背後にある精神のきらめきのようなものが、審査を通じて次第に顕在化してくるのだ。それはやはり凄いもので、みていて本当に勉強になる。団体展、個展という枠組みではなくて、大事なのはあくまでも内容である。集団ならではのブレーンストーミングみたいな相乗効果にも、まだまだ可能性は残されているということを、近年の芦展は示してくれているように思う。
 というわけで、ありがたいことに面白いことをして遊びたければ芦展の屋外、という共通認識が徐々に浸透しつつあるようだ。口コミで聞きつけ、来年からひとつやったろかと、偵察に来た作家の姿もチラホラみうけられた。自分も一緒に遊びたい、という気持ちがむずむずと喚起され、草の根的に広がってゆくのも「具体」流である。賞でも一発とって美術界でのし上がる足掛かりに……にはならないけれど、そんな心構えはやはり作品に出てしまう。落選。
 というわけで、最後に宣伝を一発。この記事をご覧のアーティストの方、もしご興味があれば、ぜひ芦屋市展の屋外展示にトライしませんか? これほど徹底的に遊べる場を、より多くの方々に使ってもらわない手はないと思うので……。
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会場:芦屋市立美術博物館  兵庫県芦屋市伊勢町12-25
会期:2001年6月23日(土)〜7月8日(日)
問い合わせ:Tel. 0797-38-5432 Fax. 0797-38-5434

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report学芸員レポート [芦屋市立美術博物館]

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丹田さんの山荘にて
丹田さんの山荘にて
左から山本淳夫、堀尾貞治、清水公明
撮影=丹田悦雄


 6月半ばのとある週末、山荘へ招かれた。メンバーは総勢4名、アーティストの堀尾貞治さん、建築家の丹田悦雄さん、ギャラリー2001の清水公明さん、そして当方という、何やらいわく付きの顔ぶれである。堀尾さんについては何度か本欄に登場していただいたのでリンク参照ということで。ギャラリー2001はかつての東門画廊、六間画廊の流れを汲む、関西でも屈指のアンダーグラウンド・ギャラリー。オーナーの清水さんが来年夏に芦屋市立美術博物館で堀尾さんの個展が開催される、ということを聞きつけたのが発端で、担当学芸員との攻防をクローズにしておくのはもったいない、夜を徹してみんなでワイワイ語り明かそうではないか、という趣旨だったようだ。かくして清水さんが旧知の丹田さんに声をかけ、その作品である月ケ瀬の山荘を会場としてご提供いただいたという次第。
 ところが… 実際にはその山荘の素晴らしさに、白熱したトークなどどこへやら、一同すっかりなごみモードになってしまった。建物は約25年前にある人物の週末住宅として建てられ、現在は作者である丹田さんの所有となっている。崖っぷちに屹立する、清水の舞台みたいな構造の、いわば空中住宅である。正方形のフロア面は縦横3等分、計9つの小さな正方形のモジュールに区切られていて、そのうち3つが居住スペース、3つがフロア面のみ、3つが床すらない、フレームだけの虚の正方形となっている。素晴らしいのは、虚の方形のひとつに網が張られていて、いわば巨大なハンモック状態になっていることだ。編目を通してはるか下方がスケスケで、高所恐怖症としては最初の一歩を踏み出すのが冷汗ものなのだが、いざ寝ころんでしまえば……。
 梅雨時期にもかかわらず絶好の晴天。朝食を済ませ、巨大ハンモックにごろ寝すると、仰向けなら木々の葉っぱを通して青空が、寝返りをうつと遠くの山並みが一望できる。絶え間ない小鳥のさえずりの中、上下左右、全方位からのそよ風に包まれて、朝っぱらからビールなんか飲んじゃったりしようものならアナタ、もう展覧会なんかどうでも… いやいや、それくらい心地よいという。気づいたらもう昼過ぎで、各自思い出したように「すんません、今日の打合せはなし、ということで……」「ちょっと戻れそうにないので、よろしく」などと電話口で恐縮するのがおかしかった。
 当方は決して建築に精通しているわけではなく、素人っぽい印象批評しか出来ないのだが、空間や環境が人間の生理に及ぼす影響の大きさ、みたいなことを改めて思わずにいられなかった。都市空間にも、少しずつでも心地よい空間がもっと増えれば、多少は血なまぐさい事件も減るかしら。でも生産性は落ちるかな。もしかしたら、殺伐たる都市空間はGNP上げるために誰かが裏で仕組んだものだったりして……などなど酔いにまかせて愚にも付かぬことを夢想してしまった。
 というわけで、隔月ではあるが約1年半にわたる本欄への執筆も、今回が最後。次回、9月号からは神戸アートビレッジセンターの木ノ下さんが活きのいい情報を届けてくれることになっております。作家、ギャラリー、アートスケープ担当者はじめ関係各位、そして読者の皆さま、短い期間ではありましたが駄文にお付き合いいただき本当にありがとうございました。
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